笠原 映画の中でもありましたが、例えばゲーム端末から触れるっていうのもやっていきだいですし、TVからっていうのもやっていきたいですし。
細田 そうですよね。僕、こないだ任天堂の宮本茂(専務取締役)さんと対談させてもらったんですけど、その時に宮本さんが「単一機種で1千万台以上も世界中に広がっているのはDSだけ」というようなことを言ってたんですよ。「それを活かして何かやりたい」っていう話をされていて、それにもワクワクさせられたんですけど、そういう面白いことが何かできるといいですよね。
笠原 ゲームとネットは今後さらに融合していくと思いますけどね。
細田 でも大きく言えばそのふたつですよね。映画の中でもそうですけど、コミュニケーションの部分と、バトル=ゲームの部分があって、それが今のネットの2大要素になってる。その2大要素がそれぞれ発展していくのもいいですけど、それがさらにうまく組み合わさっていって、いろんな人たちを巻き込んで面白いことができたら楽しいなって。mixiも1700万人参加しているわけだから、いろいろできるんじゃないかなって。僕がひとつ思ってるのは、mixiで遊んでるくらいに気軽な感じのまま、mixiを通して何か社会貢献に繋がるようなこともできないかなってことなんですよ。例えば、mixiで日記を書くだけで何%かどこかに自動寄付されるみたいな。積極的にボランティアサイトにいくっていう形じゃなくて、知らず知らずのうちに社会貢献してるっていうのは気分いいんじゃないかなと思って。社会貢献って言ってしまうと、いかにも道徳っぽいものを感じさせて、覚悟を強いられるでしょ? そうじゃなくて、自分たちも楽しんでいるうちになんかいいことに還元されてるっていう。
笠原 確かに若い人たちを中心に、基本いいことをしたいという人たちは増えてきている気はしますね。うちで言うと、去年、mixi年賀状っていう企画があったんですよ。それは住所を知らなくてもマイミクに年賀状を送れるっていう企画だったんですが、同時に『mixi Green Project』というのをやっていて、2通年賀状を出したら、1本苗木を植林できる費用をうちが負担するというものだったんです。そこはあまり強くは打ち出さなかったので、年賀状を利用した人の中にも知らない方がいたかもしれないですが、そういうこともやってました。
細田 それはいいですね! そういうふうに気楽な形で自然にできたら一番いい。いいことしようって声張り上げて何かやるって、苦手なんですよ(笑)。もっとカジュアルにできたらなって。でも、さっきの話じゃないですけど、昔は手紙を書くっていうことが重かったわけじゃないですか。それが今はメールになって、ネットによって人間関係もコミュニケーションも柔らかくなった。それと同じように、つい肩肘張っちゃうような行動をもっと柔らかくやれるようにもできるんじゃないかなって。そんなふうに皆すべきだってことではなくて、僕自身がそうしたいと言うか、いろんなハードルを下げて欲しいなっていう話なんですけどね。映画の後半で描かれてることもそういうことで、あれはボランティアとはまた違うんだけど、精神的には一緒なんですよね。ネットにはそういう希望みたいものもあると思いますけどね。ところで笠原さんはアニメというのは小さいころから見ていたんですか?
笠原 そうですね。普通にひと通り見た、という感じだと思います。小・中学校時代で言うと、『ドラえもん』だとか、あと『ドカベン』だとか。世代で言うと、『キン肉マン』『北斗の拳』『ドラゴンボール』『SLAM DUNK』という感じですね。大阪出身なんですけど、よく再放送していて見てたのが『じゃりン子チエ』なんですよ。
細田 『じゃりン子チエ』は関西だけで放送してた第2部っていうのがあるんですよ。全国放送じゃなくて。大阪ってすごくて、昨日もまさに大阪キャンペーンだったんですけど、アニメの放送率がすごく高いんですよね。東京よりも高いし、地方にしても今、全然アニメを放送しないですからね。日本中で今一番アニメに親しんでるのが大阪なんですよ。関西の放送局の人はアニメ好きなんですよね。『ドカベン』は世代からすると、かなりマニアックですよね?(笑)
笠原 なんでしょうね(笑)。よく再放送してたから見てたんですけど、野球もすごく好きだったんですよ。昔は皆野球ばっかりだったじゃないですか。自分も野球ばっかりやっていて。不知火(守)っていう左目が見えないピッチャーが出て来ますよね? 主人公の山田太郎も好きだったんですけど、不知火も好きで憧れてたんですよ。
細田 『ドカベン』は皆好きでしたよね。今回の映画に高校野球が出てくるのも『ドカベン』の影響で…なんて言ってみたりして(笑)。
笠原 映画に出てくる松商学園や佐久長聖って、実際に長野にある野球の強豪校ですよね。あと上田高校とか。上田高校って、上田城の跡地にあるんですよね。
細田 高校野球も詳しいんですね! あと上田高校にも(笑)。出身校ではないですよね? 普通の人は上田城の跡地にあるなんて、なかなか知らないですよ。僕だって知らなかった(笑)。
笠原 いや、直接の関係は、何の関係もないんですけど(笑)、上田城にいた真田幸村が好きなんですよ。小学生の時にNHKの大河ドラマで『徳川家康』をやっていて、そこで若林豪さんが演じていた真田幸村を見て好きになって。完全にドラマの影響なんですけど、最後、徳川の陣営に斬り込んでいくのが印象的で、それからはまっちゃいましたね。
細田 そうだったんですね。真田家の中でも真田幸村の人気はすごいですよね。今また人気になってますけど、なんでこんなに皆好きかなって。『真田太平記』も大河ドラマでやってましたよね? 丹波哲郎が真田昌幸(幸村の父)をやっていて。草刈正雄も出てたような。
笠原 そうですね。草刈さんが幸村で、信之(幸村の兄)が渡瀬恒彦さんだったかな?
細田 そうだ、そうだ、さすがお詳しい(笑)。僕はどっちかって言うと、日本史的には幕末のほうが好きなんですよ。真田家に関して言えば、うちの嫁がそもそも上田市の出身なんですよ。だからむしろ嫁の影響で、それで好きになったっていう。そうか、でも長野に野球にITと、今回の映画は笠原さんの好きな要素が結構入ってたんですね(笑)。
笠原 SF的な話というのも、もともとすごく好きなんですよ。だからそういう意味でもすごく好きな映画でした。男の子は好きな映画だと思いますよ。なんか未来を感じさせるものはアニメ・実写問わず好きですし、インスピレーションを受けますね。SF大会ってあるんですよね? ああいう場にも行ってみたいなと思っていたりして(笑)。
細田 こういう世界に進もうと思ったり、起業しようと思ったのは、実は『ドラえもん』の影響だったりもするんですか?(笑)
笠原 うーん、そうなのかもしれないですね(笑)。
細田 いや、無理にそう答えなくてもいいんですよ!?(笑)
笠原 でも、どんな便利なサービスがあるかなって『ドラえもん』を読み返したりすることもあるんですよ(笑)。さすがにそれが実現に直結することはないですけど、未来的でいいんですよね。あと僕、お婆ちゃんっ子でもあったんですよ。そういう意味でもすごく映画に感情移入できました。うちのお婆ちゃんも99歳くらいまで生きていて、非常に影響受けましたね。
細田 どんなお婆ちゃんだったんですか?
笠原 社交的でしたね。本当に口が達者で、リーダーシップがあって、みたいな。自分とは違うタイプなんですが、すごく強いお婆ちゃんでしたね。だからちょっと重なるところがあって。映画で出てくる「人生に負けないこと」っていうお婆ちゃんのセリフにはジンと来ました。
細田 うちもそうなんですけど、実際のお婆ちゃんってすごくビシッとしていて、孫には優しいにしても、優しいばっかりじゃないんですよね。映画の中のお婆ちゃんって優しく柔らかく描かれがちなんだけど、昔の時代を生きた人のシャキッとした強さがあって。ただ、そういうお婆ちゃん像は少ないんですよね。演じられる役者さんがまずいない。だから今回にしても、お婆ちゃん役をお願いするには失礼な富司純子さんにピシッと演じてもらって。いや、でもそうか、お婆ちゃんっ子。いろいろ共通項はあるものですね(笑)。
笠原 そうですね。本当に好きな要素が盛りだくさんの映画でした(笑)。
文:渡辺水央
写真:源賀津巳
ほそだ・まもる(写真右)
'67年、富山県生まれ。東映動画入社後、アニメーターを経て演出家に転向。ルイ・ヴィトンPV『SUPERFLAT MONOGRAM』などを監督し、'06年に発表した劇場作品『時をかける少女』は国内外の映画祭で絶賛され、数多くの賞を受賞した。
かさはら・けんじ(写真左)
'75年、大阪府生まれ。株式会社ミクシィの代表取締役社長。大学在学中に求人情報サイト『Find Job !』の運営を開始。'04年より国内初のSNSとして“mixi”サービスの提供に携わる。現在会員数は1700万人以上にのぼる。
(C)SUMMER WARS FILM PARTNERS
『時をかける少女』の細田守監督が次に描くのは、現実と同様の仮想都市OZ(オズ)が存在する2010年の世界。夏休みに憧れの先輩・夏希に誘われて彼女の田舎を訪れた健二は、そこで大災難に巻き込まれてしまう。キャラクター・デザインを手掛けるのは『新世紀エヴァンゲリオン』で知られる貞本義行。
[監督]細田守
[声の出演]神木隆之介/桜庭ななみ/谷村美月/富司純子