細田守×笠原健治/『サマーウォーズ』対談

細田守×笠原健治 写真

『サマーウォーズ』


細田守

映画『サマーウォーズ』で考える
現代コミュニケーション論


細田  mixiにもTwitterに近いもので、エコーっていう機能がありますよね。

笠原  あります、あります。よくご存じですね(笑)。うちもエコーは強化していく必要があるなと思ってるんですが、より自分の思ったことを素直に吐き出せる手段がどんどん増えてきているなという印象はすごくありますね。

細田  つまりあれですよね、テクノロジーによって何かより面白いコミュニケーションが取れると言うより、考え方ですよね。ルールの力と言うか。Twitterにしても、反応しなくてもいいよ、ひとり言だよっていうルールがあるから、それによって参加する人が楽になったり、より大らかになったりする。mixiもそうだと思うんですけど、テクノロジーによってこういうことができるから楽しいというものではなくて、コミュニケーションのルール作りが楽しいんだと思うんですね。だってTwitterならTwitterを最初に企画した人は、どうしてこれが広がると思ったんだろうって。今は当たり前のものになってますけど、広がる前にしてみれば、「ひとり言を言う場所って、なんだそりゃ!?」ですよね(笑)。

笠原  まぁそういう意味では僕たちもそうかもしれないですね(笑)。日記がここまで使われるとは思ってなかったかですから。使われる理由として、コミュニケーションの敷居が低いと言うか、気兼ねなく情報発信できるというのはあると思うんですが、そこにおいて確信はなかった気はしますね。なんとなく友達同士で気軽にコミュニケーションできていいんじゃんというのはあったんですが。

細田  なるほど、なるほど。最初から意図してるわけではないんですよね。必然的に皆がそういう使い方をし始めたっていう。

笠原  ここまで昼めしのネタが多いとも思ってなかったですからね(笑)。コミュニケーションの今後ということで言うと、僕たちはプラットホーム展開と呼んでるんですが、mixiのハードウェアの仕組み自体をオープン化していって、アプリケーションをいろいろ増やしていこうというのがあるんですよ。ファミコンがあって、任天堂一社しかゲームソフトを作っていないというのがこれまでのmixiの状況だとしたら、バンダイナムコでもスクウェアエニックスでも、どんなところでもゲームソフトを供給できますっていう今後で、プラットホーム展開なんです。今、個人の方も含めて、いろんな会社さんとお話しさせていただいていて、この8月にはもう始めようと考えているんですが、それをやることでさらにいろんなコミュニケーションが生まれてくるんじゃないかなと思ってるんですよ。例えば、日記よりもさらにライトなコミュケーションや、日記をもっとデコレーションしたようなアプリケーション。あと、ゲームっぽいコミュニケーションというのも出て来ると思いますね。

細田  ゲームっぽいコミュニケーション? (ニンテンドーDS専用ソフトの)『トモダチコレクション』的な?

笠原  『トモダチコレクション』っぼいサービスもあり得ると思うんですが、例えば友達同士でいたずらをし合ってコミュニケーションするようなゲームも面白いんじゃないかなって。今、ベータ版で出ているアプリケーションが500くらいあるんですが、そのうちのひとつに、『駐車戦争』っていうソーシャルゲームかあるんです。それはそれぞれが駐車場を持っていて、友達の駐車場に違法駐車するっていう内容なんですよ。それで時間が経てば経つほど罰金が加算されていくんですが、相手がそれを取り締まる前に車を移動させれば、その罰金を奪えるんです。その友達は移動される前に逆に取り締まれば、罰金を取れて、皆で現金の残高を競い合うっていう。うちの会社の中でも結構流行っていて、「今、彼はミーティング中で取り締まることができないから、停めてやろう!」みたいな(笑)。テキストのコミュニケーションとはまた違う形で、ゲームでお互い近況確認じゃないですが、そうやってコミュニケーションを取って楽しんでもらえらたらと思ってるんです。

細田  なるほど。でもそうですね、テキストのコミュニケーションに対してプレッシャーを感じる人というのもいますもんね。僕なんかも実はそうで、日記も年に1回くらいしか書かないですから。年に1回どころか、前作が完成した時に書いて、次にちゃんと書いたのが今回の作品が完成した時だから、3年に1回ですよ(笑)。ただ、そのくらいテキストに対してプレッシャーを抱える人って、実はいっぱいいると思うんですね。そういう人にとっては、それがmixiであっても書き込みづらいと思うんですよ。でも今みたいにテキストじゃなくて違う形で存在を示すサービスがあれば、すごい福音ですよ。ゲームのコミュニケーションって、よりOZっぽいですね(笑)。

笠原  そうですね(笑)。それこそお店屋さんみたいなアプリケーションもあって、それぞれが店を持って、いろいろ商品を仕入れて店を繁盛させていくとか、いろんなアプリケーションが出てきますね。だいたい友達同士で競い合うもので、場合によってはmixi中全体で競い合うっていうのもあるんですが、そこでコミュニケーションしていくという感じですね。実際、30代以降の男性は日記は書かない人が多いんですよ。20代の若い女性ほど活発に書いていて。男性の場合、もう少しゲームっぽいコミュニケーションだったり、もしくは実用的なコミュニケーションのほうがうれしいかなとは思うんです。もっと年配の人になってくると、家族間でコミュニケーションできたり、趣味の話ができたりしたほうがうれしいだろうなとか。日記だけだとどうしても限界があるので、ゲームも含めていろんなコミュニケーション手段を増やしていきたいなと思ってますね。それをうち一社でやっていくのではなくて、他の会社も巻き込んでやっていこうと。

細田  それはいいですね。楽しみだな。


PROFILE

ほそだ・まもる(写真右)
'67年、富山県生まれ。東映動画入社後、アニメーターを経て演出家に転向。ルイ・ヴィトンPV『SUPERFLAT MONOGRAM』などを監督し、'06年に発表した劇場作品『時をかける少女』は国内外の映画祭で絶賛され、数多くの賞を受賞した。

PROFILE

かさはら・けんじ(写真左)
'75年、大阪府生まれ。株式会社ミクシィの代表取締役社長。大学在学中に求人情報サイト『Find Job !』の運営を開始。'04年より国内初のSNSとして“mixi”サービスの提供に携わる。現在会員数は1700万人以上にのぼる。

『サマーウォーズ』
『サマーウォーズ』写真

(C)SUMMER WARS FILM PARTNERS

『時をかける少女』の細田守監督が次に描くのは、現実と同様の仮想都市OZ(オズ)が存在する2010年の世界。夏休みに憧れの先輩・夏希に誘われて彼女の田舎を訪れた健二は、そこで大災難に巻き込まれてしまう。キャラクター・デザインを手掛けるのは『新世紀エヴァンゲリオン』で知られる貞本義行。
[監督]細田守
[声の出演]神木隆之介/桜庭ななみ/谷村美月/富司純子