竹原市の大久野島沖の海底で旧日本軍の毒ガス兵器と疑われる不審物がみつかった問題で、環境省は、12日、23個の不審物を引き揚げました。このうち2個は、「あか筒」と呼ばれる毒ガス兵器の可能性があるということです。
「今、ダイバーが海に飛び込みました。これから不審物の引上げ作業が始まります」(藤原佳那子記者)
戦時中、旧日本軍の毒ガス製造工場があったために、地図からも消されていた竹原市の大久野島―。その60メートル沖合の瀬戸内海で、「不審物」の引き揚げ作業が行われました。
作業にあたったのは、環境省の委託を受けた民間業者です。海底20メートルから筒状の不審物23個を引き揚げました。
「こちらには、きょう引き揚げられた発煙筒が並べられています」(藤原佳那子記者)
引き揚げられた金属製の不審物は、最も大きなもので長さおよそ20センチ。直径およそ6センチでした。
「きょう引き揚げられたものの中にあか剤がある可能性は非常に低いとみられますが、これからしっかり調査する必要があると思います」(毒ガス兵器専門家 上野優さん)
環境省が現地に派遣した専門家によりますと、今回引き揚げられた不審物は、いずれも旧日本軍が大久野島で製造したものとみられるということです。23個の不審物うち、2個は「あか筒」と呼ばれる毒ガス兵器の可能性があり、ほかの21個は発炎筒か催涙筒の可能性があるということです。
これらの不審物が、大久野島沖の海底で発見されたのは、今年1月のことです。不審物は毒ガス弾であることが疑われ、地元は不審物の早急な撤去を国に求めましたが、海中で見つかった毒ガス弾の処理について、どの省庁が担当するのか明確な規定はありませんでした。
最終的には環境省の担当に決まりましたが、決定までの調整に時間がかかったことで、不審物の発見から12日の引き揚げまでに7か月を要しています。
「環境省が率先して住民の皆さんの不安を取り除きたい。そういうことで最初の遅れを多少取り戻したのかなと思っております」(斉藤鉄夫環境相)
三原市に住む83歳の藤本安馬さんは、戦時中、大久野島の毒ガス工場で働いていました。
「これは痰がつまらないように、痰がよく出る薬なんです」(藤本安馬さん)
藤本さんが工場で働いたのは、17歳までの2年間です。呼吸器に障害をもたらすびらん性の毒ガス・ルイサイトの製造を担当。自らも障害を受け、以来、慢性の呼吸器疾患に悩まされています。
「さほど人畜に影響はなかろうという判断で今まで放置してきたあか筒ですら、中国で発火している」(藤本安馬さん)
あか筒は、火をつけると強烈なくしゃみ性の毒ガスを噴き出します。こうした化学兵器を、戦時中、旧日本軍は中国大陸に大量に持ち込み、終戦後、現地に捨てました。日本の毒ガス弾は、今も中国の各地に大量に残されていて、その総数は30万発から40万発と推定されています。
現地では、建設工事などで土の中から化学兵器が見つかり、猛毒に触れた住民が深刻な被害にあう事故が後を絶ちません。
「大久野島で毒ガスを作ったいう、これは殺人未遂、犯罪ですよ。謝って済む問題じゃないんです」(藤本安馬さん)
藤本さんは、国内でも海中などに投棄された毒ガス兵器の存在について、調査を進める必要性を指摘します。
「毒ガスを作った国の責任として調査を行わなければならないという、これは当然の道理です」(藤本安馬さん)
国は、12日引き揚げた毒ガス兵器とみられる物体について、危険度などを調べることにしています。
「今回のこの引き揚げたものを詳しく分析をして、その分析結果をみて判断したいと思います」(斉藤鉄夫環境相)
竹原市は、今後、大久野島海域の調査と掃海を国に求める方針です。(8/12 19:05) |