インド洋で交錯する地域大国の権益と戦略、緊張の火種を分析しました。
先日、インドは初の国産原子力潜水艦を配備し、これまでアメリカなど5カ国のみが独占してきた海の覇権争いに名乗りを挙げました。インド洋で交錯する地域大国の権益と戦略。緊張の火種を分析しました。
25年以上前から民族対立を原因に続いてきたインドの南、スリランカでの内戦は5月、政府側の激しい攻撃による勝利で、一応の終結を見た。
しかし、軍事評論家の宇垣大成氏は「今回の内戦終結に、大きな力が働いたといえるでしょう」と話した。
南アジアに今、働く大きな力とは。
7月26日、インドのマンモハン・シン首相は誇らしげに「きょう、わが国は原子力潜水艦を製造することができる(米中など)選ばれた5カ国への仲間入りを果たした」と述べた。
演説するシン首相の背後に見える大きな黒い物体は、7月末にインドが自力で建造したとし、進水を公開したインド海軍の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦「アリハント」。
インド側の報道規制により、その全容ははっきりしない。
しかし、長期間浮上せず行動できるミサイル搭載原潜の登場は、インド海軍の活動範囲の拡大を意味する。
シン首相は「われわれはいかなる『攻撃的傾向』も持っていないし、誰かの『脅威』になるつもりもない」と述べた。
2007年に日本を訪れたインド海軍の新鋭ミサイル駆逐艦などの艦艇について、宇垣氏は「これらの戦闘艦の特徴は、船体が大型で、射程が長く、命中精度、破壊力ともに高い兵器を外洋で使えるということです。原子力潜水艦の進水とともに、インド海軍は今、外洋で行動できる艦隊を建設しつつあります」と話した。
インドが軍拡に走る背景には、地政学的事情がある。
資源の豊富なアフリカや中東へ通ずるインド洋。
目覚ましい成長をするインドにとって、この海域の覇権は不可欠なもの。
現在、この海域で圧倒的な存在感を示すのは、アメリカ海軍。
そのアメリカとインドの関係は、現在良好となっている。
では、インドが「海軍建設」を急ぐ理由は何なのか。
そのヒントが、インドの南、スリランカに見られるという。
北部を中心に分離独立を求めていたタミル人武装組織との内戦は、25年以上続き、犠牲者は少なくとも7万人といわれる。
2009年5月、政府は大攻勢に出て、実質的に内戦に勝利した。
その映像に映る政府軍兵士が手にする、そして操る、さまざまな兵器の多くが中国製となっている。
中には、中国が近年開発した最新鋭クラスの装備までが、スリランカ政府軍の中に見て取れる。
宇垣氏は「スリランカ政府軍の装備を見ますと、中国からは、規模の大きな軍事援助がすでに直接届いていることがわかります。こうした軍事援助から、今回の内戦終結に大きな力が働いたということが言えるでしょう」と話した。
今回のスリランカの内戦は、中国の強力な軍事援助が終結させた可能性もあると、宇垣氏はみている。
中国がスリランカに深く関与するわけもまた、インド洋にある。
インド洋の対岸は、石油や資源の宝庫である中東やアフリカ。
中国の狙いは、インドの権益と重なる。
現在、中国は、スリランカで港や道路の建設、投資と援助を行い、その影響力を強めているという。
宇垣氏は「これらの援助と引き換えなのか、中国はスリランカにも自国の海軍が寄港できる港を建設中だと伝えられています。これで中国海軍によるインド洋進出のための拠点が、また1つ新たにできるわけです」と話した。
宇垣氏によれば、中国はすでにインドを囲む形で、ある権益ラインを確保しつつあるという。
そのラインは、強い影響を持つミャンマーから、その沖合の島、そしてインドネシアで中国軍が借りているという海軍寄港地へ続く。
そして、ラインは、スリランカの軍港とインドと対立するパキスタン西部の港から、中東やアフリカへとつながるものだという。
このラインは、インドを囲むようにも見える。
そして、この中国も今、海軍増強に力を入れている。
2009年4月には攻撃型、そして弾道ミサイル搭載型、それぞれの原子力潜水艦を海外メディアに公開し、外洋展開の能力を誇示した。
インド洋ソマリア沖の海賊対策では、両国がすでにそれぞれの新鋭艦艇を派遣し、存在感を増している。
今回のインドの原潜開発は、インド洋での新たな火種となるのだろうか。
(08/15 02:22)