2009年7月2日14時1分
山口県光市で99年に起きた母子殺害事件をめぐり、橋下徹弁護士(現大阪府知事)のテレビでの発言で名誉を傷つけられたうえ、大量の懲戒請求を受けて業務を妨害されたとして、被告の元少年(28)の弁護人だった弁護士4人が計1200万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が2日午後、広島高裁であった。広田聡裁判長は橋下氏に計800万円の支払いを命じた一審・広島地裁判決を変更し、1人あたり90万円、計360万円の支払いを橋下氏に命じる判決を言い渡した。
判決は「テレビという媒体を利用し、虚偽の事実を交えて視聴者に懲戒請求への参加を求めた」とし、原告らが心身両面での負担を迫られた不法行為を認めたが、名誉棄損は認定しなかった。
昨年10月の一審判決によると、橋下氏は知事になる前の07年5月27日に全国で放送された読売テレビ(大阪)の番組に出演。被告の元少年が同月に広島高裁で始まった差し戻し控訴審で殺意や強姦(ごうかん)目的を否認するなど、一、二審とは主張を一転させた点に関して「(弁護団が)そういう主張を組み立てたとしか考えられない」と批判。「許せないって思うんだったら弁護士会に懲戒請求をかけてもらいたい」と発言した。この後、昨年1月までに4人に対し1人当たり600件を超す懲戒請求があった。
一審判決は、橋下氏の発言について「弁護団が虚偽の事実を創作して主張したと想起させる」とし、指摘には根拠がなく、名誉棄損に当たると認定。「少数派の基本的人権を保護する弁護士の使命や職責を正しく理解していない」と指摘し、発言で大量の懲戒請求が申し立てられた結果、弁護団が精神的、経済的損害を受けたと認めた。
控訴審で橋下氏側は、一審判決は事実誤認があり、番組全体を見れば弁護団の弁護方針を弁護士の立場から批判したにとどまる▽「懲戒請求をかけてもらいたい」との発言は懲戒制度を紹介しただけで、制度を知った視聴者が自主的判断で懲戒請求をした――などと反論していた。
橋下氏は昨年10月下旬、「遅延損害金が増えるのを避けたい」として一審判決が命じた賠償額とその時点の遅延損害金を合わせた約856万円を原告側に支払っている。
日弁連によると、原告の4弁護士に対する懲戒を決めた弁護士会はない。一方、大阪弁護士会の綱紀委員会は橋下氏の発言について「弁護士の品位を失うべき非行にあたる」と判断しており、控訴審判決を受け、懲戒処分を決める懲戒委員会に審査を求めるとみられる。(村形勘樹)