2009総選挙
政権選択を問う総選挙。各政党が入り乱れ、夏本番を迎えた選挙戦の行方は
【国際】グルジア紛争1年 終わらぬ悪夢 笑顔失う子どもたち2009年8月10日 朝刊
南オセチアとの境界近く、昨夏にロシア軍が侵攻したグルジアの主要都市ゴリの近郊に住むソソ・ハルクヘリ君(15)が左手を失ったのは、紛争から半年近くがすぎた今年一月下旬のことだ。 金色で「きれいだから」と拾った金属の筒は、不発弾だった。 母マヤさん(36)によると、ソソ君は以来、小さな音にも脅え、意味もなく三つ下の妹に怒鳴り散らしたり、「人が変わった」という。 ソソ君の手を奪ったのは、クラスター(集束)爆弾の子爆弾の可能性が高い。一つの爆弾が数百の子爆弾を散布するクラスター爆弾は、不発弾による民間人被害が多発し、国際的に禁止の動きが広がっている。 ゴリ警察署のトラマキゼ署長代理によると、ゴリ地域では紛争後に十人以上が不発弾で死傷。これまで数百発の不発弾を回収したが、発見地域は郊外にも及び、紛争から一年がすぎても作業が終わらない。トラマキゼ代理は言う。「ここはまだ戦場なんだ」 グルジアのヤコバシビリ国務相は七日、本紙との会見で、「クラスターは使ったが、ゴリなど住宅地は避けた」と説明。ロシアは使用自体を否定している。 お互いに相手の使用を「残虐行為」と非難するが、現地を調査した国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは「民間人の居住地域に、ロシア、グルジア双方のクラスター弾が着弾した」(ラクシナ・グルジア担当専門員)と断じている。ソソ君が拾った不発弾が、いずれのものだったのかは不明だ。 ゴリ第七学校(日本の小、中、高校に相当)のイオルガナシビリ校長(49)は紛争以来、子どもたちの笑顔が少なくなったのが気掛かりだ。空爆の日、路上に転がった死体を大勢の子が目にした。「今でも、飛行機の音がしただけで泣きだす子どももいるんです」 ゴリの学校では紛争後、心理回復や爆弾を見分ける教育プログラムも取り入れられた。道徳で自由や平等を学んだ後は、殺し合いからの心身の守り方…。 国連児童基金(ユニセフ)グルジア事務所によると、紛争で約二千人の子どもが心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えたと推定されるという。 ゴリ地域では、先月末から境界の両側で迫撃砲による攻撃騒ぎが相次ぎ、再び緊張が高まっている。 七日、南オセチアから見えるよう、ゴリの高台で、グルジア旗をかたどった人文字作りに参加した生徒、マイゼルくん(17)は「ロシアは泥棒だ」。 ロシアによる南オセチア、アブハジア独立承認は、かえってグルジアの領土統一の悲願に火を付けたようにもみえる。 ソソ君は左手と一緒に、「キックボクサーになりたい」という夢も失った。今、一番の願いは「平和」。子どもらしくない模範回答だが、空疎な政治家の言葉とは違い、切実な思いが感じられた。 (トビリシで、酒井和人、写真も)
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