業界が重要な課題に直面している

August
09
2009

 自作業界が徐々に衰退してゆく様を見るのは本当に忍びない。いや自作業界だけでなく、ナショナルメーカーも含めたコンプリートPC業界全般に言えることかも知れないが、いずれもあまりにコストダウンを意識しすぎた結果、正直年々品質が劣化してきてしまっていることは否めない事実だと思う。そしてその結果、多くのユーザーがPCトラブルに直面し、困惑していることだろう。私も(私の周辺も)、デスクトップ以外はナショナルメーカー品を使ったりせざるを得ないが、1年以内の故障率は信じられないほどだった。娘の大学進学に伴って買い与えたノートPCなど、購入後わずが3ヶ月で、起動やアクセスに問題が出始め、その1ヵ月後には、ほぼ壊滅的となった。その症状は思い当たるものでそんな故障がまさか有名メーカーのPCに短期間で出るとは夢にも思わなかった。そして、この1年の間に何度も書いたことだが、自作業界での最も大きな課題とは、「電源の品質問題」である。

 

 確かに、過去にコンプリートPCを大量に販売していた当時、兎に角価格最優先でなければ、ビジネスは成立しなかった。本体の卸値がOSインストールで¥30,000-とか¥35,000-とかでないと、取り扱ってももらえないという事実がすべてを物語っていた。それはそれで、ビジネスの一つの形式と考えればいいのだろうが、実際にそのために品質には目を瞑るという、絶対に手を出してはいけない領域を侵してしまったことには、非常に悔いが残る。ケースにしてもそうで、国内で作るから高価になる、という側面もあるが、それよりも作り方、設計方法、そしてエアフローなどを真剣に考えて、長い期間実験を重ねてようやくデリバリというステップを踏めば、開発費用もそれなりにかかってしまう。今回もJAZZ CROSSOVERでも、何度もプロトを作り、そして最終プロトをキャンセルしてやり直すという半年間の開発期間をかけているのだから、価格的にはどうしようもない。そういう問題を無視しては、まともな製品などできるわけがないのだ。

 

 しかし、現実の市場は甘くない。いくらそんな努力を水面下で行っていても、所詮、「価格」という呪縛から逃れることは出来ない。利益をすべて飛ばして¥40,000-で販売しても、実勢からはほど遠く高価なのだ。そんな苦しい戦いをもう何年も続けている。世の中、不景気で「低価格」であることが万能な時代、これだけの構造物(アルミケース)を、この価格で販売できるなら、本来はとびきり安価であるはずだが、それでもWiNDy製品は断トツで高価だといわれる。単純工数を比較しても¥35,000-で販売していた初代MT-PRO2000と比較して現在のVR2000GMBⅡなどは、約3.8倍(抜き工数+曲げ工数+組み立て工数)になっているにも関わらず、価格は2倍にも届いていない。熟練があったとしても、これはどうにもならないほどに安価なのだと思う。

 

 こうして長年にわたって「廉価販売」が、自作業界のプライムカレントであったことが、いま、暗い影を落としている。電源の故障によって、崩壊するマシンがどうやら物凄い量に上っているらしいのだ。一昨年のソルダム時代、そして昨年からは、アイエヌジーのサポートに電源トラブルに関する依頼が急増した。もう電源がショートした、基板が火を噴いた、動作がパタリと止まった、ファンが焼ききれた・・・・等々。そしてそのいずれもが、電源自体完全に損壊していた。ちょうどその頃、私は台湾のTOPOWERへ出向き、現実の電源供給の内幕を嫌というほど聞かされて、うんざりしていた。そして、業界のために、ユーザーのためにその事実を、公表すべきか非常に悩んだ。TOPOWER社長との会談でも、産業用や高級オーディオ用の品質をATX電源のアフターマーケットで販売するには、無理があるとしても、数年間の使用に耐えうる品質は、きちんと確保しています、という言葉とモノづくりに関する姿勢に納得して、TOPOWER電源をWiNDy推奨とすることを決めた。しかし、このまま、国内ユーザー向けに、(他社の)現状の品質が供給され続けるとすれば、大変なことになると痛感した。

 

 その不安が、結果として見事に適中してしまった。先日、某大メーカーでオーディオ用電源を開発していたK氏にお話を伺いました。K氏とは数年ぶりで、当時も電源に関する様々なアドバイスをいただきましたが、今回は具体的にいろいろご指導をいただきました。そして、ATX電源をいくつか見ていただいて、感想をいただいたのですが、「明らかに数年前よりも品質は劣化しているものが多い」とのことでした。難しい公式やポイントなどもご説明いただきましたが、要約すれば、「電源というのは・・・たとえば主要パーツであるコンデンサのキャパシタンス(静電容量・電気容量)は、温度や電圧の変化、劣化に非常にセンシティブだから、現実の動作環境を維持または改善しないと、安定動作は得られない」ということでした。これは、私の理解と完全に一致することで、ケース屋としては極力ケアしなければならない課題です。それから「無造作な基板、陳腐なパーツ、ノイズ対策等廉価な電源はみな酷い・・・・」「高価であっても、このつくりはないと思う・・・」と数々の指摘をいただきました。また、TOPOWER電源に関しても、不十分と思われる点をいくつか指摘されました。「全体としては相対的なレベルは一歩抜きん出てるかもしれないが、やはり疑問な点もなくはない」と言うことでした。(実際、他社の電源は酷評されました)

 

 それで、昨今の電源トラブル多発のことを聞くと、「それは当たり前でしょう・・・・。もし、このレベルの電源を装着するのなら、ある程度の覚悟は必要だと思いますよ」とのこと。このある程度の覚悟、というのはつまり、電源崩壊によってPCが致命的な損傷を受けるということに他なりません。しかし、現状はもう引き返せないような状況に、自作業界はいます。そのあたりも説明をすると、「電源の動作環境を少しでも改善するしか、方法はなさそう」とのこと。市販のATX電源のスペックを見れば、おそらく大部分は25℃環境下での出力、特性表示となっていますが、そもそもそれが問題で、実際の動作は、45℃近辺の環境下なのです。この環境下では表示出力は、ほとんど絶望的であり、また特性も大きく乱れているはずで、まして耐久性は著しく劣化しているということになります。だから、電源に供給できるケース内部のエア温度を出来るだけ低くすることや、できれば電源に供給するエアフローの流速を高めることで、電源の動作環境の改善を図るしか、手段がないということになります。

 

 しかし、実際に具体的な説明を聞くと、非常に怖くなってきます。もし、45℃の環境を40℃に出来れば・・・、それはかなりの効果が望めるのではありませんか?というK氏の言葉で、私は現在のラインナップ変更が、正しい方向であると確信しました。奇しくも私がそう考えて再度、エアフローを見直そうと思ったことは、正しかったのだと安堵しました。CPUの発熱量が増加したことも、電源にはマイナスでしょう。そしてCPU周辺に徹底的にフレッシュエアを吹きかけることが、電源の耐久性向上に直結するのです。その点で、AFASを搭載したWiNDyモデルのエアフローに対する考え方は大正解であったと思いますし、さらに強力な構造を目指すというのも、現状を考えれば必須なのはもはや明確なのです。市場の明確な支持はいただけなかったとしても、そういう開発姿勢をここ数年間貫いてきたことが、K氏の言葉で報われたような気持ちでした。電源トラブルになれば、各パーツに過電流が流れ破損する・・・そのときの損害は計り知れないものなのでしょう。だから、真剣にエアフローを考えなければなりません。常に、エアフローのコア位置を確認し、最適化を図らねばなりません。JAZZ CROSSROARDは、前作と変わらないじゃないか、と言われましたが、その意味ではまったく別物なのです。

 

 我々はこうして、真剣に電源冷却を考えています。だからこそ、もう陳腐な電源を、詐欺まがいの販売をやって欲しくは無いのです。規格統一して出力、特性表示は45℃環境下として欲しいと思いますし、主要パーツはせめてデータシートがあるようなしっかりとしたものを使って欲しい。そうでないと、ユーザーの信頼をこのまま「廉価」という蓑で欺き続けることになります。それが、まず自作業界の直面した最大の課題だと思います。

 

 

 

 

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Posted by 有海啓介 | この記事のURL |