「昼間は何とかなっても、夜間の当直医が足りない“綱渡り”の状態。大学に掛け合っても『(医師を派遣する強制力がないので)常勤医がほしければ自分で探して』と言われた」と新見市のある病院長は言う。
当直医の大半は他病院からのパート医師が支え、院長自身も週1回程度、当直に入る。それでも確保できない時は、つてを頼って探し回る。院長は「20年以上前にここへ来た時は、何人も常勤医がいた。今は当時の4分の1しかいない」と嘆く。
人口約3万5000人の新見市では4病院が地域医療の中核を担う。各病院は年間約100~300件の救急搬送を受け入れているが、昨年末までの2年間、市内に急患を積極的に受け入れる救急告示病院はなかった。県、医師会などで作る「県医療対策協議会」は昨年6月、1年間に限り岡山済生会総合病院、倉敷中央病院など県内6病院から2カ月交代で医師の派遣を開始。ようやく、市内唯一の救急告示病院が復活した経緯がある。
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県によると、県内の人口10万人当たりの医師数(06年現在)は264・2人と全国平均(217・5人)を大きく上回る。しかし、県内を5地域に分けた二次医療圏ごとに見ると、岡山、備前市など県南東部が301・0人、倉敷市など県南西部261・1人なのに対し、高梁・新見154・5人▽真庭163・1人▽津山・英田172・3人--など県北部との差が著しい。
医療の“南北格差”について、岡山大学病院血液・腫瘍(しゅよう)・呼吸器・アレルギー内科の谷本光音教授は「勤務先の病院が県南に多いことや子供の教育を考えると、医師に限らず、不便な土地に住みたがる人は少ない。県北出身でなければ行きたがらない傾向にあり、医療だけでなく産業構造を含めて地域再生を考えないと現状は変わらない。昨年4月の診療報酬の改定で収入が減り、更に地域の診療は追い込まれた」と指摘する。04年に始まった臨床研修制度で都市部に研修医が集中し、これまで地方に医師を派遣していた大学の医局が人事権を失ったことも追い打ちをかけた。
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同協議会の派遣期限は5月末で終了したが、急患の受け入れ態勢を変えるわけにはいかない。市や病院は医師増へ向けて動いてはいるが、見通しは立っていないのが現状だ。
同市の医師は「小泉改革は『選択と集中』の流れを作ったが、救急やプライマリーケアは特色をアピールしにくい。また、突出した魅力が病院に求められる傾向が強いが、慢性疾患患者や高齢者が多い地方では、社会保障は魅力だけでは片付けられない」と話した。【椋田佳代】
毎日新聞 2009年8月10日 地方版