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【昭和正論座】学習院大教授・香山健一 昭和50年11月4日掲載 (4/4ページ)

2009.8.8 07:56

 百歩ゆずって、仮にそのパンフレットに述べられている諸点について、見解が分かれるとしても、それは、言論の自由に属する問題であり、それは関係業者にも認められてしかるべきものだと私は判断する。自由なき共産党独裁国家とは違って、言論の自由が保障され、見解の多様性が保障されているわが国では、トヨタ自動車工業という企業にも、環境行政批判も含めて、当然その自由な主張の権利がある。この権利はなにびとも侵すことのできないものである。たとえそこで、いかに痛烈な環境行政批判がなされていたとしても、環境庁にはその見解を撤回せよとか、その文書を回収せよとかと要求する権限はないのである。

 環境庁は言論統制機関ではないし、絶対にそうあってはならない。多様な見解が保障され、批判の自由が保障されない限り、科学的論争は不可能であり、科学的論争が冷静に行えない限り、環境行政はゆがみ続けるであろう。些細(ささい)なことのようではあるが、私は今回の橋本局長の行為は、憲法を踏みにじった重大な言論統制事件であり、総理と環境庁長官はこのような言論の自由をないがしろにし、共産党の圧力に屈して越権行為を行う局長にこそ、厳重注意を行うべきであると主張したい。そして、こうした非常識な言論統制も、実は、先に述べたような非科学的な“PPM信仰”の「空気」によって恐らくは無意識のうちになされた犯罪なのだということをわれわれは銘記しておかねばならないであろう。(こうやま けんいち)

                   ◇

 【視点】自動車排ガス規制が始まったころの話だ。昭和50年10月下旬の衆院予算委員会で、共産党議員がトヨタ自動車工業(当時)のPR資料を示し、「排ガス規制を批判している」と問題視した。環境庁は同社副社長を呼び、厳重注意にとどまらず、資料の回収まで求めた。香山氏はこれを言論の自由の問題ととらえ、「多様な言論が保障され、批判の自由が保障されない限り、科学的論争は不可能である」と環境庁の越権行為を厳しく批判した。

 香山氏はこの論文の前段で、PPM(環境基準の単位)が低ければ低いほどよいとする当時の風潮を“PPM信仰”と呼び、それに引きずられない環境行政を求めた。(石)

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