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民主政権は「旗印絞れ」 細川元首相インタビュー(5/6ページ)

2009年8月9日3時5分

写真:細川護熙さん=鈴木好之撮影細川護熙さん=鈴木好之撮影

■「官僚退治」民主は不安だ

 ――官僚といえば、政権発足時、官僚トップの官房副長官には石原信雄さんを留任させましたね。

 細川 政権交代が軌道に乗るまでという条件で留任していただきました。いまの民主党で心配するのは、官僚機構への敵対的な傾向が少し強く出過ぎていることです。われわれも官僚とは随分やりあったが、官僚機構を使いこなさないと政策の立案も実行もできない。政権は成り立たない。「官僚退治」は愚の骨頂だと思います。政権交代が常態化すれば官僚機構も当然、中立化します。石原さんの留任は唯一の継続性でした。政権交代はあくまで断絶が目的ですからね。

 ――断絶、ですか。

 細川 断絶です。例えば核を搭載したアメリカの艦船が日本に入っていたという問題。アメリカは認めているのに、日本政府は認めない。そういうことは政権交代があれば、解決する話でしょう。道路建設にしても、過去の行きがかりと決別し、中止して福祉に回すこともできます。

 民主党のマニフェストを巡り、財源論の議論が出ていますね。一般会計と特別会計の合計から不要なものを削って予算を組み直すというのも、断絶です。手間は大変ですが、意味のあることだと思います。

 田中 細川内閣は突然できたものだから、官僚の側に用意をする暇がなかった。脳振盪(のうしんとう)を起こしちゃったみたいなもので。

 細川 首相特別補佐をおいて、秀征さんを起用したのも、意外な提案だったでしょうね。法律にはない役職ですから。石原さんには苦労をかけました。

 ――民主党は「国家戦略局」を官邸におくとか、「関係閣僚会議」をつくるとか、事務次官会議を廃止するとか提案をしているが、細川政権では秀征さんの特別補佐がひとつの突破口だった。事務次官の廃止はどう思います?

 田中 あっても構わないと思いますが。連絡のため必要な場合もある。

 細川 少なくとも、事務次官会議をなくしたら官僚支配がなくなるというものではないですね。

■自民党は健全野党でなくなった

 ――一方、野党になった自民党は佐川急便からの1億円借金問題など細川さんのスキャンダルを執拗(しつよう)に追及し、細川さんは間もなく辞めてしまった。

 細川 やることをやれば、さっさとさよならをしたらいいと思う性分で、首相のポストに未練はありませんでした。古代ローマにキンキナトゥスという人がいた。ローマがある部族に攻め込まれたとき、田舎で百姓をしていた彼は元老院から独裁官に任命される。1週間ほどで敵を破ると、「仕事は終わった」と百姓に戻った。それでいいんです。私は権力のポストに恋々とするような人とはあまりおつき合いしたくない。

 ――野党・自民党の河野総裁はフェアプレーで競っていくと言っていたんですが。

 細川 河野さんとは「超大国路線」を目指さないなど、共通点は多かったと思います。自民党もはじめは、「健全野党」を標榜(ひょうぼう)し、是々非々で対応する構えだったのですが、次第に政権復帰を最優先し、抵抗と攻撃に終始するようになった。

 ――攻撃の急先鋒(きゅうせんぽう)は野中広務、深谷隆司の両氏だった。

 細川 ほんとに立ち往生しました。日本の政治改革のためには自民党支配の基盤を打ち崩さないとダメだという思いがだんだん強くなってきた。自民党が健全野党の役割を引き受けていればほかにやりようもあったのですが、裏で社会党に手を回したりもした。私も方便として、新進党、民主党に向かわざるを得なかった。自民党が健全野党になって初めて、日本の政治はいい形になると思います。

■民主党の三木武吉

 ――細川さんは日本新党を解党、小沢さんと新進党を結成する。新進党が解党されるとかなりを民主党に糾合し、「新民主党」をつくった。

 細川 新進党には自民党の対抗勢力の先鞭(せんべん)としての意味はあったと思うが、いかんせんにわか仕立てでした。小沢さんを支持するかしないかという意図せざる対立軸ができてしまった。公明党という異質な勢力を抱えたため、内部でしょっちゅう問題が起き、解党に追い込まれた。

 しかし、野党が細分化したままでは自民党に対抗できません。統一会派「民友連」(民主友愛太陽国民連合)を結成したが、政権を狙うには会派では弱い。やはり政党だと関係者を説得しました。みんな自己主張が強く、いったんはあきらめかけたが、最後は拡大民主党に収れんしたということですかね。随分長くかかりました。

 毎晩遅くまで走り回った。55年に民主党と自由党が合併したときも、夜ごと小料理屋に人が集まっていたといいますが、同じような感じだったかもしれません。

 ――三木武吉の心境?

 細川 そうですね。不毛だなと思いつつ、統一会派なんかでは自民党に太刀打ちできないと必死でした。

 田中 細川さんはいわば、現在の民主党の生みの親ですよ。ここで気合をかけてもらわないと。

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