地方の医師不足が深刻化している。鳥取市立病院は昨年9月末、小児科の休診に追い込まれた。昨年6月から民間の医師紹介業者に登録したり、岡山大医学部などに派遣要請をしてきたが、今もめどが立っていない。
勤務していた2人の小児科医は、同市内の県立中央病院に集約された。国は「拠点病院への集約化・重点化」の構想を描いている。医師の派遣元の鳥取大付属病院の豊島良太院長は「2人体制では負担が重く、疲弊を招く。医師の集中はやむを得ない」と判断した。
ところが今年2月、拠点病院さえも医師不足を理由に地域医療が崩壊しかねない事態が起きた。鳥取大付属病院の救急医4人全員が辞職を表明したのだ。多すぎる当直といった過大な負担が理由だった。
県外からも医師を集め体制強化を図って何とか救急救命機能は維持した。一方、8月からは「時間外診療特別料金」を導入して、患者の他病院への拡散を図っている。夜間などに救命救急センターで受診し、軽症で入院の必要がなかった患者には一律5250円を負担してもらう仕組み。不要な受診を抑制し、医師の負担軽減を狙っている。特別料金を知らずに受診した患者が納得せずに、現場が混乱する恐れもある。
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山間部の医師不足はより深刻だが、智頭病院では、地域一丸となって地域医療の崩壊を防ごうという取り組みが進められている。小児科の大谷恭一医師は鳥取市より東南部の公立病院では唯一の小児科医だ。多忙を極める中、大谷医師が重視しているのは、家庭でできる予防や看護の浸透。うがいの仕方、適切な水分のとり方といった基本的な予防策をちらしやホームページで伝えてきた。患者側にも“コンビニ受診”はやめようという意識が浸透しつつある。
患者モニターを募集し、ニーズを探る座談会も開いてきた。「被爆を伴う検査や治療は出来れば避けたい」という声が寄せられ、必ずしも必要ない検査は避けるようになった。患者のニーズに応え、医師の負担を減らす一石二鳥の取り組みだ。
しかし、家庭での予防や検査抑制は病院経営にとってはマイナス。大谷医師は「経営面を考えると、真に患者と向き合う小児科医療はナンセンス。民間でなく町直轄だからできる」と言う。頼りの町財政は火の車だ。
地方の医師不足を招いたは、04年に必修化された臨床研修制度。研修医が病院を選べるため、都市部に医師が集中した。県内には臨床研修指定の病院が7病院あるが、導入前に50人を超えていた研修医が、09年は29人に減った。
厚労省は5月、研修医の募集定員について人口などに応じて都道府県ごとに上限を定め、医師の少ない県に加算することを決めた。「地方の大学病院への研修医回帰を図る」としているが、上限枠は研修医の受け入れ実績が反映される。県医療政策課は「過去の実績がない地方が切り捨てられる」と危機感を募らせる。
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医師確保に奔走する鳥取市立病院の武田行雄事務局長は言う。「小手先の政策では何も変わらない。診療報酬の改善とか、根本的な改革をしてくれないと地方に医師は残らない」【宇多川はるか】
毎日新聞 2009年8月7日 地方版