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大分県 中津市立中津市民病院
国病移譲から10年目
本格的な中核機能装備へ環境整う
2009.8.5

 大分県の中津市立中津市民病院(増田英隆院長、250床)は、国立病院からの移譲を受けて2000年7月にスタートした自治体病院。この7月で移譲からちょうど10年目を迎え、過去8年間、順調に黒字で推移(図1)してきた。昨年6月には安定的な経営が評価されて08年度の自治体立優良病院5病院に選ばれ、総務大臣表彰も受けた。ただ、救急対応機能の強化など、12年度にも完成する新病院のオープンと合わせ、今後は本格的な地域中核病院としてのパワーアップが課題となっている。

 そもそも中津市民病院は、地域全体を総合病院と見なす「地域完結型」の中核的病院として位置付けられてきた。しかし、経営の安定とは別に、病院自体の総合性が低く、特に救急対応で課題を抱えてきた。同病院が、救急医療を中心に多発外傷や、複合疾患に対応することができなかったのは、「地域完結型病院」というコンセプトがあったこと、それを説得力のある議論にしたのが、大分市や北九州市と比較的近く、3次のみならず2次救急機能にも大きな支障がないという認識があった。

 しかし、移譲後9年目で、新病院の建設計画が具体化し、脳神経外科や整形外科の診療科目設置について、地域の合意がここに来て得られ、本格的な地域中核病院へと脱皮するチャンスが巡ってきた。

 しかし、そうした状況も、新医師臨床研修制度の導入以来、全国の自治体病院を猛烈な勢いで襲った「医師不足」が中津市民病院も見舞っている。同病院では、医師不足から3年前に産婦人科の分娩業務を中断し、いまだに再開できないでいる。「院長に就任してからの2年半はとにかく医師確保に精一杯努力してきた。多少の成果は上がったと思っているが、産科の再開がなかなか前に進まないことが今は胸につかえている」と増田院長は語る。

●院内保育所も設置

 中津市民病院の黒字を支えてきた1つの理由に、移譲後から数年はそれほど医師不足に悩んでいなかったことが挙げられる。実際、常勤医数は移譲後は順調に増え、06年4月には移譲前の19人から34人にまで拡大した。それが06年度以後から減少し、今年4月には33人にまで戻したが、一方では研修医の確保が難しくなった(図2)。

 医師確保については、これまで多くの手を打ってきてはいる。医師確保の主な取り組みを見ると、後述する「魅力ある病院建設」を前面に押し出しながら、「医師処遇改善」「就労環境整備」「医師派遣依頼の大学医局、国、県、関係機関などへの要請」「全国の中津出身の医師に窮状を説明し支援依頼文書を送付」「求人広告」「管理型・協力型臨床研修病院指定、サマースクールの実施」「研究、医療知識、技術向上の奨励」「中津市独自の奨学金制度の創設」などが並ぶ。

 処遇改善では各種手当制度の改善などのほか、コメディカル業務の拡大による医師負担の軽減策も盛り込んだ。就労環境整備では07年度から院内保育所も設置した。

●内科医療機能充実の必要性

 増田院長は、就任後以来、医師確保問題を軸にして、「見えてきた課題」をこう整理する。

 まず、「多発外傷、複合疾患への対処」だ。これは、医師不足もあるが、根底には同病院がいわば理想型としての「地域完結医療のモデル」を目指したところが背景になっている課題だ。地域全体で、1つの完結型病院という発想は悪くはないが、複数の、専門の違う医師が共同で急ぐべき診療を行わなければならない命題には現実には対処できない。このことは中津市民の一部からも批判が強かった部分。また、開業医師の多くが、実際には夜間の連携体制がとれない。

 また増田氏は、内科などの専門医制度による医師確保の不利も課題に挙げる。中津市では、大分・別府、北九州市といった高機能医療機関が集まる地域と60km圏、55km圏しか離れていない。このことが2次、3次救急の必然性の認識を弱めているわけだが、実は市民も高い診療機能を求めて、40%ほどが両都市圏に出かけていく実態がある。こうした患者動向を食い止められない理由として「内科診療が当院で行っている消化器、内分泌、循環器、一般内科以外に呼吸器、脳神経、感染症、血液、腎臓、膠原病など多岐にわたることであろう」と増田氏は推測する。

 「見えてきた課題」について、増田院長はこのほかに、建物の狭隘(きょうあい)化、設備の老朽化、医師確保問題を挙げる。多発外傷・複合疾患への対処、建物の老朽化問題は、すでに一定の方向性が結論として出された。昨年1月に、中津市民病院経営・施設整備検討委員会が出した報告書がそれで、今後はこの報告書に沿って戦略が進んでいくことになる。




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