「このまま運転して警察人生と家族を棒に振りますか?」‐。福岡県警直方署は、自戒のメッセージと家族写真入りの「飲酒運転防止カード」を作り、マイカーに張ることを署員に義務付けた。取り締まる側が、自ら飲酒運転に手を染める危うさを想定した異例の取り組み。八山繁治副署長(54)は「身内(警察内部)の反発があるかもしれないが、不退転の決意で臨む」と話す。
警察官の飲酒運転は後を絶たない。5月には、名古屋市の守山署副署長(警視)が、飲酒後にマイカーで署の駐車場に戻るという不祥事が発覚。福岡県内でも小倉北署の警部補が酒を飲んで追突事故を起こしたとして逮捕・起訴され、6月末に懲戒免職処分となった。
直方署員約130人の大半はマイカー通勤。「署員を信じたいが、決して人ごとではない」(八山副署長)として、抑止策を検討。自家用車のナンバーを結婚記念日にするほどの愛妻家、小宇佐昌敏署長(55)の「家族写真を置くのが一番」との鶴の一声で、写真入りカードに決まった。
カードは名刺サイズ。メッセージの内容は、幹部が考案した「このまま-棒に振りますか?」の基本形のほか、「お酒は残ってませんか」「このまま運転して家族を不幸に陥れますか」など、独自に言葉を考えた署員もいる。
このメッセージに家族の写真を添えてラミネート加工した。年長者は孫の写真、中堅の働き盛り世代は家族の集合写真の持ち込みが多いという。3歳の孫の写真入りカードを運転席近くに張った幹部(56)は「無邪気な笑顔に見つめられたら、飲酒運転なんてできるわけないよ」と話す。
アルコール依存症や飲酒運転の撲滅に取り組む特定非営利活動法人(NPO法人)「アルコール薬物問題全国市民協会」(ASK、東京)の今成知美代表は、直方署の今回のカードについて「面白い取り組み」と評価。その上で、「ストレスが募り、睡眠時間が不規則な警察関係者には飲酒が生活習慣になっている人も多いはず。その生活習慣を見直すことこそが、飲酒運転の根絶に最も効果がある」とも指摘している。
さて決意の防止カードは効果を発揮するか‐。
=2009/07/28付 西日本新聞夕刊=