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「第2回みちくさ市」エピソード1 黒岩比佐子さん、岡崎武志さん、はにかみ高校生

当日は予報に反し、陽射しが強く照りつける快晴。長く外にいると熱中症にはならないまでも、ぼうっとなってしまいそうな暑さの中、足をお運びくださった多くのお客さま、ありがとうございました。また炎天下運営面で動き回り、いろいろ心を砕いていただいた<わめぞ>のスタッフの方々、そして参加された店主の方々、お疲れさまでした。

「とみきち屋」恒例となった、古本市参加後のエピソード集、始めます。

黒岩比佐子さん
5月の「一箱古本市」で運に恵まれ「黒岩比佐子賞」を頂戴したのだが、そのプレゼンター・黒岩さんご本人にお越しいただく。みちくさ市に向けて書いた私どものブログをお読みになっていたとのことで、店主とみきちと私の間のバトル(笑)をご心配いただき恐縮。いろいろと和やかにお話しさせていただき、楽しいひと時でした。
増殖していく本を保管していくことの苦労(黒岩さんの仕事柄、私などの比ではないはず)を聞かせていただく。
貴重、稀少、素敵な本をどれだけお持ちなのか知る由もないが、「蔵書の6割も読み通してはいない」という言葉から、おぼろ気ではあれ蔵書の凄さが想像される。読み通さないまでも、実際取り組んでいらっしゃる、或いは今後考えていらっしゃるテーマに関する物はさっと目を通し、付箋を貼って後に使えるようにされている本も多いとのこと。
「現在の蔵書の中から読みたい物をこれから読み続けていっても、一生の間に読み終えることは無理」という話題では、物書きではない素人の私にも通ずるところがあって、盛り上がった。

最近、黒岩さんはブログ『古書の森日記 by HISAKO』(http://blog.livedoor.jp/hisako9618/)の中で、フリーランスの厳しさや在り方について真摯に語っていらっしゃる。

 私は常々、ライターという仕事は職人だと思っている。コツコツと手仕事でものをつくり、自分が魂を注いで創ったものに誇りが持てれば、それが安かろうと高かろうと、金銭に結びつくかどうかは二の次なのだ。これしか払えない、と言われて安い料金で仕事を頼まれたからといって、手を抜いて粗雑な仕事はできない。自分でもちょっと変だとは思いつつ、同じ10枚の原稿を400字1枚当たり3000円で頼まれた場合と、1枚1万円で頼まれた場合で、かかる時間と労力は変わらないのだ。3週間かけて原稿を書き上げて、受け取るのは3万円だったり10万円だったりする。やはり不思議だ(笑)。
でも、フリーのライターは、そうやって必死で生きている人ばかり。とりあえず、筆一本でこうして生きていられるだけでも、幸運なのだろう。フリーランスの物書きになって、今年で24年目になる。 〔7月23日付「ちょっと脱線して」より〕

黒岩さんのライターとしての誠実さ、矜持がひしと伝わってくる。柔らかな物腰、穏やかな話しぶりの奧に、強く、揺るがぬ「芯」を持っていらっしゃるのを実感。
黒岩さんには、角川財団学芸賞受賞『編集者 国木田独歩の時代』(角川選書)、最新作『明治のお嬢様』(角川選書)、5月に文庫化された『音のない記憶 ろうあの写真家 井上孝治』(角川ソフィア文庫)、サントリー学芸賞受賞『「食道楽」の人 村井弦斎』(岩波書店)ほか、緻密で丹念な取材のもと練り上げられた上質な作品が多い。作品を書き上げる際、妥協しない、ある意味(もちろんいい意味で)頑固な人であることも伺われる。

個人的には、自分の興味の対象と重なっているということもあるが『編集者 国木田独歩の時代』、『日露戦争 勝利の後の誤算』(文春新書)、むのたけじ・黒岩比佐子聞き手『戦争絶滅へ、人間復活へ―九三歳・ジャーナリストの発言』(岩波新書)がとりわけ好きだ。
岩波新書では、広範な知識に驚くばかりか、むのたけじ氏から深い言葉を引き出す聞き手としての卓越した才能にも目を惹かれる。
黒岩さんには、竹内洋『日本の近代12 学歴貴族の栄光と挫折』(中央公論社)をご購入いただく。というより、無理矢理押しつけてしまった感じ(笑)。

岡崎武志さん、はにかみ高校生
昨年11月「みちくさ市」プレ開催の際、その出会いがあまりにも衝撃的で、その様子をブログでとりあげ、思わず「はにかみ高校生」などとご本人の許可も得ずに私が命名してしまった。その彼がこんなに有名になるとは思ってもいなかった。何といっても、高名な岡崎武志さんがブログ『okatakeの日記』(http://d.hatena.ne.jp/okatake/)で、前回(第1回)に続いて今回も彼に触れたことが大きい。あの岡崎さんを魅了し、岡崎さんご本人に「はにかみ高校生」登場のお触れを出させるくらいだから、恐るべき高校生。今回は出店者の多くが熱い視線を送っていた。出店者およびその関係者の多くが彼のことを話題にしていた。

岡崎さんから「ハニカミくんが来たよ。今線路を渡ってそちらに向かっている」と聞いた時から胸が高鳴る。前回は店を離れている時に来たので会えなかったからいっそう。「うちに寄ってくれるだろうか。本を手にとってくれるだろうか」と気が気でない。その優雅なたたずまいは変わることなく、鬼子母神商店街がプリンス・ロードと化していた。
古本好きの男性が本を探すとき、足を開いてしゃがみこみ、食い入るように目を走らせ本を手にする(私のような)おっさん風か、ちょっと離れてじっと目を凝らし品定めするというのが多い。しかし、彼は全く違う。しゃがむ時も足を前後にし、一冊一冊を慈しむように手にとって、静かに頁をめくり、戻す時は丁寧に同じ場所に戻す。他のお客さんが軒先を占めていると、じっと横で待っていて割り込んでは来ない。本好きでなくとも、彼の立ち居振る舞いに接したら、決して忘れられないであろう。

当店では、杉森久英『苦悩の旗手太宰治』(河出文庫)を購入。太宰にも興味を持っていると知ることができ嬉しくなる。それにしても、26年も前に発行され、経年変化で黄ばんだ文庫を狙ったように手にして、2分ほど読んでから差し出すのだから参ってしまう。彼が読んでいる間、例によってこちらの心臓ばくばく。2分が1時間近くにも感じられた(笑)。
これで3回続けて購入してもらったが、どこまで続くだろうか。記録を伸ばしたいものだ。
「こんにちは。いつもありがとうございます」と最初に挨拶した以外、敢えて声をかけなかったので、話はできず。それでも大満足。「はにかみ高校生」命名者として、そして一人のファンとして、これからも温かく見守っていきたいものだ。
岡崎さんのブログで、彼の好きな作家が安岡章太郎と知り、直前になって講談社文芸文庫の2冊を引っ込めてしまったことが悔やまれる。でもまあ、彼なら既に持っている可能性大だな。

5月の「不忍ブックストリート 一箱古本市」で、足立巻一『虹滅記』(朝日文芸文庫)をお買い上げいただいたお客様が来られたので、御礼を述べる。
「今日は少ないですねえ」と言われてしまう。「一箱古本市」に比べ、「みちくさ市」は展示スペースが広いので出品本の数ははるかに多い。つまり、いい本が少ないですねという意味。
手を抜いたわけではないのだが、『虹滅記』などを買われるお客様からしたら、物足りないと感じられるのは無理はないかも。

古本市に参加する回数が増えてくると、自分の読みたい本最優先に加え、普段古本好きな方が足を運ぶ古書店をそれほど回ってはいない私には、厳しいものがある。確かに今回、秋の一箱を意識して出品しなかった本も多かった。「みちくさ市」に比べると「一箱古本市」の方が、まだ今のところコアなお客様が多いように感じられるからだ。それだけではなく、前回とできるだけ違ったラインアップをと意識すると無理が生じるのかもしれぬ。感触としてつかんでいたつもりなのに、今回また他店とかぶってしまう本が多かったような気もする。

まだまだ勉強不足、難しいなあと痛感。しかし、それだけ奥深く、楽しみも多い。問題は自分の知識、情報量、それに蔵書の数と質、時間的な余裕が追いついていけるかだ。精進、精進(汗)。

で、厳しい感想をいただいたお客様には、下條信輔『サブリミナル・マインド』(中公新書)を購入いただく。先般(6月に)書いた記事「中公新書の魅力《中公新書の森 2000点のヴィリジアン》」の中で、私個人の中公新書ベスト10の中には入れなかったが、ベスト20なら入れていた本なので、何故かほっとする。
帰り際、「秋はさらに頑張ります!」と伝えたら、「楽しみにしていますよ!」と言っていただく。うわあ、プレッシャーだ~(笑)。また、この方の素敵な笑顔が見たい。

【追記】お客様から早速ご丁寧なコメントをいただきました。本文中、購入いただいた本のタイトルを誤って記してしまい、ご指摘いただいたので訂正いたしました。恐縮です。本の質には特にご不満はなかったご様子を伺え、ほっといたしました。

いつもの如く、ゆっくり続きを書いていきます。1週間かかるか、何回にわたるかは本人にもわかりません(笑)。

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コメント

こんばんは。
『サブリミナル・マインド』を買った長谷川です。

「今日は少ないですねえ」は商品の質ではなく、
文字通り商品数が少なく感じたのですが、
今回のほうが多いんですね。
失礼致しました。

ちなみに、5月に私が買ったのは『やちまた』『夢声戦争日記』ではなく、『虹滅紀』です。

秋の一箱楽しみにしています。

投稿: 長谷川 | 2009年7月26日 (日曜日) 22:06

>長谷川さま

ご丁寧なコメントいただき、ありがとうございました。購入いただいた本を誤記いたしましたこと、お詫びいたします。すみませんでした。早速訂正させていただきました。

>今回のほうが多いんですね。失礼致しました。

とんでもございません。スペースに余裕がある分、雑然と並べてしまったために、少ないようにお感じになられたのではないかと思います。自身、クオリティとしては一箱には少し劣るかなあと感じ、もっと工夫せねばと思っておりましたので、どうかお気になさらないでください。とはいえ、長谷川さんの言葉を勘違いしてしまい、すみませんでした。
おわかりいただけると思いますが、全然嫌な気にはなりませんでした。お声をかけていただき、嬉しかったです。

>秋の一箱楽しみにしています。

ありがとうございます! お眼鏡にかなう、或いはお好みの本を出品できるかどうかはわかりませんが、できる限りいいものを用意し、お待ちしております。
またお話しできるのを楽しみにしております。

投稿: 風太郎 | 2009年7月26日 (日曜日) 23:21

とみきちさん、おつかれさまでした。ハニカミくん、密かに、そっと盛り上げて、大事に見守っていきたいものです。いつか、彼女といっしょに来るといいですね。

投稿: 岡崎武志 | 2009年7月27日 (月曜日) 09:10

こちらこそ、どうもありがとうございました。あの暑さのなかで、みなさん大変だったと思いますが、店主の方々のお顔を拝見し、あれこれお話しできて、今回のみちくさ市も本当に楽しかったです。いよいよ本の置き場所がなくなってきたら、私もみなさんの後塵を拝しつつ、店主として古本市に参加するかもしれません(笑)。

投稿: Hisako | 2009年7月27日 (月曜日) 12:39

>岡崎武志さま

ご多忙の中、いろいろな古本市に岡崎さんが参加してくださるので注目も浴びますし、励みにもなります。ほんとうにお疲れさまでした。
ハニカミくんのような高校生がいてくれる、そして束の間でも本を介して向かい合えるなんて嬉しいことですね。岡崎さんもおっしゃるように「密かに」盛り上げ、「大事に」見守っていきたいと思います。

>いつか、彼女といっしょに来るといいですね。

想像するだけでワクワクしてしまいます。きっと文学に造詣の深い素敵なお嬢さんでは。でも、案外彼とは対照的で(彼の代わりに)お喋りしてくれそうな彼女だったりして。いけませんね、おじさん的妄想の世界に入ってしまいました(笑)。
あっ、岡崎さん。(店主)「とみきち」は妻で、(番頭の)私は一応「風太郎」と名乗っております。二人で<とみきち屋>として出店しておりますので、ほんとはどうでもいいことなのですが(笑)。

投稿: 風太郎 (とみきち屋) | 2009年7月27日 (月曜日) 20:11

>黒岩比佐子さま

勝手にブログを引用させていただいたにも拘わらず、コメント頂戴し恐縮しております。
楽しいひと時をありがとうございました。
黒岩さんが古本市に参加されたら、ファンはもとより大勢の方が押し寄せ、整理券を配らなければなりませんね(笑)。

歴史の中に埋もれてしまっている興味深く、重要な人物にスポットをあてたり、よく知られている人物や史実から、これまでにない新たな像や意味合いを引き出し、考えさせてくれる本はそうめったに出会えるものではありません。丹念な調査、根気強さ、余人にはない透徹した目があってこそ産み出されるもの。黒岩さんならではの作品、これからも心待ちにしております。

投稿: 風太郎(とみきち屋) | 2009年7月27日 (月曜日) 20:15

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