2009年8月3日19時0分
空港に集合した「懺悔の旅」の参加者ら=7月30日、シアトル、山中写す
広島・長崎に届ける千羽鶴を掲げるトム・カーリンさん(左)夫妻=シアトル、山中写す
米市民が被爆者に直接、原爆投下を謝罪するのは是か非か――。米西部ワシントン州でこの夏、論争が起きた。オバマ大統領の非核演説に力を得て、初の「広島・長崎懺悔(ざんげ)の旅」を企画した元米兵ら17人は、米国内の強い反発にとまどいながらも、3日に広島、7日に長崎に入る。ただ、謝罪は控えることにした。
ワシントン州タコマ市一帯に住む15歳の女子高校生から81歳の男性まで計17人は、7月末に米国を出発。東京、岩国、広島、長崎を2週間かけて巡る。
呼びかけ人のひとり、トム・カーリンさん(73)は元米海軍の下士官で、1950年代後半、米軍厚木基地に勤務した。長崎市で見た被爆展示に衝撃を受け、米国に戻ると反戦活動を始めた。昨春から、タコマ市在住の日本人僧侶幸島満佳(こうじま・みちよし)さん(60)らと旅の企画を練ってきた。地元の小中学生らに呼びかけて4千羽の折り鶴を用意。「原爆投下を謝罪します」という署名も約500人から集めた。
ところが、7月に入って地元メディアに取り上げられると、批判が起こった。「米国が日本に謝罪することは、日本軍に殺された米兵や米市民には侮辱になる」「今の日本の市民にはもう真珠湾攻撃の責任がない。われわれ米市民にも原爆投下の責任はない」「わざわざ日本に行くのなら、日本軍の残虐な行為に対する謝罪を日本の市民から受けてきたらどうか」。そんな投書が地元紙に掲載された。
批判の先頭に立ったジョー・ゼラズニーさん(88)は元米陸軍中佐。欧州戦線で捕虜となった経験から、捕虜の苦難を語り継ぐ活動を主宰してきた。朝日新聞の取材に「原爆投下はあの不幸な戦争を早く終わらせるために欠かせなかった。オバマ大統領の核廃絶には敬意を表するが、戦場を知らない一般市民が、今になって何の必要があって日本に謝罪するのかまったく納得できない」と語った。