中東・アフリカ

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イラク:クルド自治区議長再選 領土・油田・権限配分、「対中央」緊張続く

 イラク北部のクルド自治区で25日行われた選挙で、現職のバルザニ議長が再選された。議会選でも、新興勢力の台頭はあったが、2大政党が過半数を維持した。自治区が直面する最大の問題の一つであるアラブ人主導の中央政府との緊張関係について、バルザニ氏は非妥協的な姿勢を維持しており、事態の解決は容易ではない。【カイロ和田浩明】

 「中央VSクルド」の主要争点は、領土と油田、権限配分。自治志向の強いクルド側と、中央集権化を目指すマリキ政権はことあるごとに対立し、軍事面でも緊張が続く。08年の夏以降だけでも、クルド自治区の境界付近などで少なくとも6回、イラク軍とクルド側の兵士・住民らが衝突寸前の事態になっている。

 6月28日未明には、帰属未定の北部の油田都市キルクーク近くにきたアラブ兵主体のイラク軍の通過を、クルド住民やイラク軍のクルド人兵士らが阻止。24時間にわたりにらみ合った。結局、アラブ兵側が迂回(うかい)して事なきを得た。

 北部3県を自治するクルド側は、自域外のニネベ県、キルクーク、中部ディヤラ県などのクルド人集住地区も自領土へ編入するよう求めている。

 自治議会は先月24日、こうした「係争地域」を「地理的、歴史的にクルド領」と定めた新憲法案を可決。中央政府側は「イラク連邦憲法に反する」と批判した。

 油田問題でも、クルド側は独自に外国企業と開発契約を結び、6月に輸出を始めた。中央政府は結果的に黙認したものの「違法」との立場。だが、中央政府とクルド側の油田開発権限や収益配分原則を規定する「炭化水素法」は、連邦議会の混乱で可決されていない。

 事態を深刻視する「後見役」の米国は、今月初めにバイデン副大統領、29日にはゲーツ国防長官をイラクに派遣。双方に妥協を促した。

 バルザニ議長によると、マリキ首相が近くクルド自治区を訪れ争点を協議するというが、日程は確定していない。

 ◇現地事情に詳しい弁護士「新興勢力台頭で変化出る可能性」

 クルド自治議会選挙で躍進した野党勢力「変革運動」は、中央政府との緊張関係にどのような影響を与えるのか。現地の政治情勢に詳しいクルド自治区の弁護士、モハメド・シンジャリ氏=写真・本人提供=に聞いた。【カイロ和田浩明】

 変革運動は、クルド愛国同盟(PUK)の元メンバーが中心になり06年に結成された。リーダーのナウシルワン・ムスタファ氏(65)は、PUKを率いるタラバニ大統領の側近だったが、既成政党の「腐敗」を批判している。

 中央政府との関係では、自治政府の現在の対立姿勢に批判的だ。対話で解決できるとのスタンスを取っている。キルクークなど中央政府と帰属が争われている地域をクルド領に認定した、自治政府の新憲法案にも反対の立場だ。

 これまで議会は、バルザニ自治政府議長が党首のクルド民主党(KDP)とPUKの2大政党が支配してきた。変革運動など新興勢力の台頭で、中央政府への対応にも一定の変化が出てくる可能性はある。来年1月の連邦議会選挙で勝てば影響力は拡大するだろう。

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 ■クルドを巡る主な動き■

1970年   クルド自治区設置

1988年   フセイン政権がクルド人を大量殺害

1991年   湾岸戦争後にクルド人が蜂起。米英軍が「イラク機の飛行禁止区域」を設け、自治区を保護

2003年   米軍がイラク侵攻。クルド兵がキルクークなど制圧

2005年4月 PUKのタラバニ氏がイラク大統領に就任

2009年6月 クルド自治区が石油輸出開始。キルクークを自領とする新憲法案可決

毎日新聞 2009年7月31日 東京朝刊

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