[掲載]2008年9月21日
■司法の崩壊に抗した裁判官
太平洋戦争の最中に、1度だけ総選挙が行われているのをご存じだろうか。それは、「翼賛選挙」と称される形骸(けいがい)化した選挙だった。時の東条英機内閣は、聖戦遂行の美名の下、翼賛政治体制協議会という御用団体の推薦候補によって、議会を支配しようと目論(もくろ)んだ。非推薦候補には、警察などが露骨な選挙妨害を行った。当選議員の約8割が推薦候補だったことからも、この選挙の異常さが理解できよう。
この時、東条内閣に抵抗した議会人がいたことは、よく知られている。芦田均、鳩山一郎らが、あえて「非推薦」として当選を勝ち取っている。
政府と闘ったのは、政治家だけではなかった。落選した非推薦候補たちは、選挙妨害の不当を訴える訴訟を次々と起こしたが、その一つを担当した裁判官たちによって、選挙妨害の実態が明らかにされ、なんと「選挙無効」判決が出されているのである。本書は、この勇気ある裁判官たちが選挙に異を唱える軌跡を追ったドラマである。「わたしは、死んでもいい」とまで述べ、司法の崩壊に抗した裁判官の情熱が、感動的である。
総選挙や裁判員制度の実施が目前に迫る中、立法や司法に現在携わる人たちに果たしてこれだけの「気骨」があるのかどうか、考えさせられた。
著者:清永 聡
出版社:新潮社 価格:¥ 714
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