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幻の3階級制覇  40年前の激闘 (7月28日午後1時18分)

 シドニーの混乱を伝える1969年10月号の「ボクシング・イラストレーテッド」誌

 米国のタブロイド版月刊誌「リング・スポーツ」1998年4月号紙上で、歴史が改ざんされようとしていた。オーストラリアの通信員が―今からだとちょうど40年前になる―1969年7月28日にシドニー・スタジアムで行われたWBC世界フェザー級タイトルマッチの模様をこう伝えたのだ。

 1万人を超える大観衆の面前で、王者ジョニー・ファメション(豪州)は2度のダウン寸前の危機を乗り越え、日本のファイティング原田(笹崎)の猛攻を華麗にさばいて勝利した…と。すかさず、5月号で、ジャック・ハーシュ記者(現・全米ボクシング記者協会会長)がこの記事に対する異議を申し立てた。

 いわく、「ダウン寸前」ではなく、ダウンしたのだ。1万人を超える大観衆は、王者の判定勝利がアナウンスされると地元判定を恥じ、盛大なブーイングでこれに応えた等、この通信員が触れていない諸事実を指摘した。さて、問題のこの試合の判定だが、シドニーにコミッションが存在せず、興行主の手配で主審に選ばれたフェザー級屈指の名王者ウィリー・ペップ(米国)が一人で採点もつけていた。

 ペップ氏を「頭がおかしい」とまで非難したのは、月刊「ザ・ボクシング」誌主宰の平沢雪村氏。豪州「ザ・テレグラフ」紙のマイク・ギブソン記者も同様の表現を使っていた。「ボクシング・イラストレーテッド」誌ほか、海外の専門誌も2回、11回、14回と計3度のダウンを奪った挑戦者の勝利を支持、フライ、バンタム級に続く原田の「幻の3階級制覇」に言及している。

 一方で、試合が接戦だったことも事実。中盤戦では王者の技巧がさえていた。当時、逃げ足と非難された王者のフットワークだが、これはかつて世界王者時代のペップに挑み敗れた名欧州王者レイ・ファメション(フランス)を叔父に持つ由緒ある血統と、完璧なアウトボクサーの育成を夢見た師匠アンブローズ・パーマー氏の理論との融合で、パーマー氏は生前、この試合を教え子の最高の試合とさえ評価していた。

 14回のダウンで右足首を負傷したにもかかわらず、あれほど強い原田の猛追を振り切ったからだ。だからこそ、母国のファンの非難にさらされ、「判定で傷ついた」のは勝者ファメションも同様で、翌年1月、東京の再戦でのKO勝利は、王者の側からの雪辱にほかならなかったのだ。(フリーライター・草野克己)

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