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報知が伝えた60年

主役再び

輪島功一 プロボクシングで2度王者に返り咲いた男

ジムで若手の練習に鋭い視線を送る輪島会長

 プロボクシングの世界スーパーウエルター級チャンピオンだった輪島功一(66)は、オスカー・アルバラード(米国)と柳済斗(韓国)に、ともに無残なKO負けを喫しながら、再戦で雪辱して2度王座に返り咲いた。「無謀だ」「まだ金が欲しいか」と陰口も聞こえる中で成し遂げられた、世界でもまれなダブルリベンジ劇。「炎の男」が、奇跡を呼んだ“裏技”のすべてを明かす。=2009年6月30日掲載=(高尾友行、敬称略)

 ◆1度目の復活-頭を使わせたら右に出るものはいない
  紫色に腫れた右目。血まみれのチャンピオンは、キャンバスにあおむけに横たわっていた。1974年6月4日、今はなき東京・両国の日大講堂(83年解体)。「ショットガン」の異名を持つアルバラードの猛攻に輪島は防戦一方となる。最終15ラウンド、ついにダウン。2度までは立ち上がった王者だが、最後は挑戦者の右ストレートを浴びて精魂尽きた。

 世界タイトル防衛7回の日本記録(当時)達成どころか、担架に乗せられて病院送り。医師からは「入院1か月」を厳命され、だれもが「輪島は終わった」ことを知った。ところが、本人だけは入院3日目に「もう1回やれば勝てる」と決断。点滴を勝手にはずして病院を抜け出してしまう。

 「試合のダメージがひどくて、頭はしっかりしてたけど立ち上がることが出来ない。でも、このまま点滴だけだと体がなまる。家に帰ってメシを食って体力をつけなければ」

 勝手な退院にあきれた病院は救急車を用意してくれない。仕方なく、身内が探し出したポンコツ車を改造し、担架ごと運び出してもらった。当時住んでいた東京・高島平の団地に戻っても、痛んだ内臓は食事を受け付けない。口に無理やり押し込んでは、吐き出す日々が20日ほど続いた。ようやく立ち上がれるようになったのは、25日目。さっそく階段を上るトレーニングを始めた。

 「いま何階だ?」「3階よ」「うそつけ、5階だろ」「3階だってば。こんなこと、もうやめて」「うるせー、オレがやるっていったらやるんだ」。復帰に猛反対する多生代(たきよ)夫人(59)との間で口論が続いた。

 死体のように転がされた惨敗の記憶は、そう簡単に払しょくできるものではない。「地獄に落とされた」ことも理解している。では、どこに「もう1回やれば勝てる」とささやく悪魔が潜んでいたのか。病室で考え、たどり着いた敗因は「オーバーワーク」以外になかった。悪魔の正体は輪島自身の冷徹な分析力だった。

 「専属トレーナーなんてオレにはいない。練習をし過ぎたんだ。完全なオーバーワーク。チャンスなのにウオーッと出られないんだから。でも三迫(仁志)会長には試合中『オレは死なねえからタオルは入れるな』って言い続けていた」

 練習をセーブして臨んだ翌75年1月21日、同じ日大講堂。輪島は「カエル跳び」など、持ち前の予測不能な変幻自在の動きを駆使してショットガンを封殺。3―0と文句なしの判定で「奇跡のカムバック」を遂げる。

 「一度倒しているから相手は余裕だよ。そこでアレッ、アレッ、こんなはずではと焦らせる。前半でこっちのペースにするため、3回までに6回分のスタミナを使って動くんだ。いつかバテる、いつか倒せるはずが、何だコイツはとなり、案の定1発を狙ってきた。ボクシングで頭を使わせたらオレの右に出るものはいないよ。その自信はある」

 細密な分析と計算。そして自信に基づく強い精神力が、奇跡をもたらした。

 ◆コーチだます-当日計量で「カゼで体調不良」演出
  リングサイドやお茶の間のファンにとって、さらにショッキングだったのが柳済斗戦だ。奇跡の復活から4か月半後の75年6月7日、北九州市立総合体育館。7回、柳のヘビー級ばりの強打とラッシュの前に、キャンバスに3度たたきつけられてKO負け。さすがに今度こそは「引退」の見出しが、報知を始め各紙に躍った。輪島自身も「すべて終わり」と語っていたのだが…。

 試合後、例によって敗因を分析すると、それはアルバラード戦以上に明白だった。5回終了直後に食らった“幻のダウン”だ。ラウンド終了のゴングを聞き、輪島はガードを解いて柳に歩み寄った。しかし「相手は終わっていなかった」。右ショートストレートをノーガードのアゴにもらってしまった。

 「敗因はあれだけだ。柳は3回りも大きくてパンチもあったけど、こっちは見た目ほど殴られていないよ。女房には『やめるから、やめるから』って。こっそりトレーニングしながらね。『まだやるのか』『無謀すぎる』『まだ金が欲しいのか』などの陰口も聞こえましたよ。でも、金だけだったら、やらんですよ」

 翌76年2月17日、輪島は再び日大講堂で不死鳥ぶりを見せつける。5日前の調印式、試合前日の会見、当日朝の計量とすべてマスク姿で登場し、カゼによる体調不良を演出した。下手な芝居のようだが、これに柳陣営がひっかかった。

 「どうしたんだ、大丈夫なのか」としきりに尋ねる柳のコーチ。「ゴホッ、ゴホッ」とやりながら「大丈夫、大丈夫」と答える。コーチが去り際にニヤリとするのを見逃さなかったという。

 「相手をだまそう、混乱させようと思ったら、側近からです。コーチをだませたら、必ず本人に伝わる。柳はオレがバテるのを待っていた。3回に攻勢に出たら、アレッと表情が変わったよ」

 相手をかく乱してペースを握ると、休まずに攻め続けた。15回、輪島の右ショートに右ひざを落とした柳は、立ち上がったものの両腕でロープにもたれて戦意喪失。そのまま10カウントを聞いた。

 ◆本紙の記者も利用された?
  心理面での裏技が柳戦の“マスク作戦”だった。これには当時ボクシング担当だったこちらも利用されたフシがある。

 試合2週間前に別件で電話したら「カゼで練習を休んでいる」という。さっそく自宅で取材して「流感でダウン 可能なら(試合)延期を」と書いた。三迫会長も慌てさせる事態になりかけたが、実際には記事が出た翌日から練習を再開し、試合も予定通りだった。

 マスク姿で柳陣営を欺いた輪島は「最初から作戦」という。記事を書かされたこちらは「カゼをひいたのは間違いない」と信じたい。ところが今回、記事に改めて目を通して「アッ」。添えた写真は、当時2歳の長女を抱いた輪島の元気なさそうな姿。流感にかかったなら、幼子を抱っこするはずがない。やはり、こちらを誘い出したところから、作戦は始まっていたようだ。

 ◆体格ハンデをカバー「カエル跳び」-ヒットさせる必要はない
  輪島を世界に押し上げたのは、相手の意表をつく“裏技”だった。

 「オレのように腕が短くて体格で劣る男が世界を相手にするには、裏の裏の裏、そのまた裏をかくしかない」

 裏技の代表格「カエル跳び」は、28歳で挑んだ初の世界戦(71年10月31日)で、カルメロ・ボッシ(イタリア)を幻惑しようとしてとっさに出たものだった。序盤、ボッシはドロー防衛狙いなのか、まともに打ってこない。それならと輪島は突然身を沈め、ジャンプしながら左を下から突き上げた。

 きちんとヒットする必要はない。ローマ五輪銀メダリストの「プライドを刺激し、かく乱する」だけでよかった。体を前後左右にクネクネさせるコミカルな動きにも、正統派を自認する王者は次第に冷静さを失っていく。2―1の際どい判定ながら裏技のオンパレードが番狂わせをもたらした。

第25回「主役再び」紙面イメージ

 29戦無敗の最強挑戦者ミゲール・デ・オリベイラ(ブラジル)とは、3度目の防衛戦(73年1月9日)で引き分け防衛。この大苦戦を教訓に、翌年2月の再戦を前にして新たな秘策を練った。

 「まともに打ち合っては勝てない。あっちは100%勝つつもりで、取り巻き15~16人を自腹で連れて来ていたよ」

 試合前の定宿ホテル。ジムに向かうタクシーの運転手が「これだ!」というヒントを授けてくれた。ハンドルを握りながら、安全確認のためだろう、ひょこっと右を向いた。客席の輪島も顔を右へ。無意識のうちにつられてしまったのだ。“あっち向いてホイッ”だ。再戦ではオリベイラも見事につられ、輪島がフッと右に視線をずらすと、そっちをチラッ。すかさず左を打ち込んでやった。

 「よそ見しても相手は視界の中だから当たる。勇気はいるさ。こっちのペースにするにはね」

 ◆輪島功一(わじま・こういち)1943年4月21日、樺太・サハリン生まれ。66歳。「ロシアが好きじゃない」ためふだんは「北海道・士別市出身」と称している。北海道に移住し小学校に入学すると、伯父の家に養子入りしてイカ漁などを手伝う。父の帰国とともに士別市に転居。高校に進むも中退して上京、建設会社に勤めながら68年、三迫ジムから25歳でプロデビュー。71年、ボッシを破り日本人初の重量級世界王者に。77年6月、4度目の王座を目指しエディ・ガソ(ニカラグア)に挑戦するも11回KO負けして引退。通算38戦31勝(25KO)6敗1分け。身長170センチ。

(2009年7月28日11時08分  スポーツ報知)

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