睾丸(こうがん)のがん、精巣腫瘍(しゅよう)に冒され、転移、再発を経て健康を取り戻した改發(かいはつ)厚さん(37)が闘病記を公開しているホームページ(HP)やブログには、現在も1日約40件のアクセスがあるという。「(あなたが)生きてることが、勇気です」。同じ病気と闘う人から、そう言われる存在になり、「姿勢を正して生きなければ」と思う。
退院した当初、医師から「再発の可能性は60%」と言われた。4年たった現在も、その確率はまだ十数%残っている。がんになって、改發さんの中で「生」に対する意識が変わった。「命の期限を実感すると、今一瞬を全うしようと思うようになる」。周囲の人への感謝の気持ちや許しを請うことなど、「これまで、伝えるべきことを後回しにできたのは、生きていることが前提だったから」と気付いた。
退院後、子どもたちから「おとうは厳しくなった」と言われる。宿題や後片付け、あいさつなど「今できることは今やれ」「手を抜くな」と教えている。「できるくせにやらないのは、ひきょうだ」と思うからだ。
「生かされている」という使命感も強くなった。「生きるために、死ぬ思いで治療した。医者から『治るかどうか分からない』と言われながらも、生きている。これってすごいなぁと。今は生きているだけで楽しいから、がむしゃらにやることが全然苦痛ではなくなった」
闘病中、いろんな人に支えられた。その分、今度は自分が支える存在になりたいと、がん患者を支援するNPO「キャンサーネットジャパン」(事務局・東京都)の活動に参加している。これまでも、HPやブログを通して個人的な相談を受けてきたが、これからは、組織の器できめ細かくフォローしたいという。今年6月には、同NPOが神戸市内で開いたがんセミナーで、約150人を前に自身の体験を語った。
今後は、再発のショックやつらい副作用で苦しむ患者のための相談会や、治療で外泊できない人のために、病院に出向く訪問相談などが目標だ。「私のように、進行したがんでも治るんだということを伝えたい。そして、精巣腫瘍のことをもっと知ってもらい、苦しまずに完治できる治療法の開発を後押しできれば」。目指す治療法が確立されるまで、改發さんの活動は続く。
改發さんの闘病記は「難治性精巣腫瘍闘病記」(ホンニナル出版、2000円)としても出版。「キャンサーネットジャパン」のHPはhttp://cancernet.jp/。【林由紀子】
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毎日新聞 2009年7月28日 地方版