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社説

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民主党の公約―「歴史的転換」に説得力を

 民主党が政権をとれば、どんな政策を、どんな体制で実行していくのか。それを具体的に有権者に約束するマニフェストを民主党が発表した。

 税金のムダ遣いを徹底的になくすことで、子ども手当の創設や農家への戸別所得補償制度など新規の目玉政策の財源を生み出していく。それが民主党マニフェストの金看板である。

 ダムなど不要不急の公共事業の中止や見直しで1.3兆円、人件費の削減で1.1兆円、天下り団体への支出の見直しなどで6.1兆円……。

 節約だけで9兆円もの財源を生み出すという民主党の財源論を、与党は「夢物語だ」と攻め立ててきた。有権者にも不安や懸念があるだろう。

 そうした声に答えようと、所要額や導入時期、財源手当てなどを大まかではあるが、具体的に示そうとしたものだ。政権担当の経験がなく、政府の歳出歳入の詳細なデータも得にくい野党には限界がある。それでも何とか肉薄したい。そんな苦心がうかがえる。

 さらに注目すべきは、政権の意思決定の仕組みや手法を大きく変える構想を打ち出したことだ。

 族議員と官僚機構が持ちつ持たれつで繰り広げる予算ぶんどり合戦。省ごとに、局ごとに固定された予算枠。国会の目がなかなか届かない特別会計の数々。その揚げ句に、800兆円を優に超す財政赤字が将来世代の負担として積み上がった。

 この半世紀というもの、自民党政権が当たり前のように続けてきた税金の分配システムである。これを抜本的に組み替えることで、公約実現を図る。政策と、実行する体制を一体で変えようということだ。

 政府に与党の議員100人以上を配置し、政策決定を内閣のもとに一元化する。予算の骨格は財務省ではなく首相直属の「国家戦略局」で練る。予算や制度のムダや不正に切り込む「行政刷新会議」を置く。閣議で決定する事柄を官僚が事前に調整する事務次官会議は廃止する……。

 実現すれば、いまの「官僚主導」の予算や政策づくりのシステムは様変わりする。「歴史的転換」を掲げる鳩山代表の気負いは分からないではない。だが、権限を失う官僚機構は抵抗するだろう。民主党政権がそれをはね返せるパワーを持てるか。「政治主導」の力量が十分あるかどうか。

 それでも、それが政権が交代することだと民主党は言う。

 自民党は、ここに今回の総選挙で問われる焦点の一つがあることを受け止めるべきだ。税金の使い方にしても、それを決めるシステムにしても、これまでの惰性を続けるのか、改革するのか。自民党の真剣な答えを聞きたい。

 投票日まで1カ月余り。説得力を競い合う時間はたっぷりある。

論点・安心と負担1―社会保障の議論は一体で

 「安心社会」「生活が第一」。与野党はセーフティーネットの充実を競い合うように掲げる。社会保障は言うまでもなく総選挙の最大の争点だ。

 暮らしの安心をどう築き、そのための負担をどう分かち合うのか。4回にわたって論じたい。まず、社会保障の3本柱である年金、医療、介護のバランスから考えてみよう。

 出そろいつつある各党のマニフェストには、年金の充実、医師不足の解消、介護の受け皿整備など、充実策が並ぶ。そのすべてが実現できるのなら結構なことだが、それには財源の制約が重くのしかかる。

 限界がある以上、税金はどの分野に優先投入すべきなのか、保険料や利用者負担を中心に考えた方が得策なのはどこか。こうした仕分けや優先順位をきちんと示してもらわないと、説得力を欠く。

 たとえば、老後を支える年金制度をめぐり、野党は税財源による最低保障年金の創設を掲げ、対抗する与党側も、低年金者への年金額の上乗せ策などをぶち上げている。

 だが、暮らしの不安は年金だけでない。例えば医療。昨年始まった75歳以上の後期高齢者医療制度には、保険料がどこまで上がるのか、医療サービスが将来、制限されはしまいかと、不安が今も根強い。

 地域では、病院が勤務医不足で診療科を減らしたり、患者の受け入れを拒否したりするケースが後を絶たない。介護現場の人手不足も深刻で、働き手の処遇改善は大きな課題だ。

 果たして、これらすべてを賄うだけのお金が国にあるのか。負担はどこまで膨らむのか。安心できる社会保障のためには、いずれ一定の増税が避けられないと思っている人でも、心配になるのではないか。

 負担増に向き合うことを求めるなら、どういう福祉社会の未来図を描くのか、年金も医療も介護も一体として、給付と負担の姿を示すことが必要ではないか。

 個人でも年月をかけて将来に備えられる年金よりも、より切実な医療・介護を安定させる。そうした政策の優先順位というのも考えねばなるまい。

 医療や介護も充実しようとすれば、ほかの行政サービスを削って財源をつくるにしても、利用者の窓口負担、保険料負担の引き上げも避けられない。

 保険料などの上昇を抑えようとすれば、その分、さらに税金の投入を増やさなくてはならない。税金も、保険料も、窓口負担も、いずれも国民の負担だ。三つの負担をどう組み合わせるのか。貴重な税財源であるからには、低所得者対策など、必要度を見極めて使い道を考えることが大切だ。

 次回は、その負担を主に担うことになる若年世代の問題を考える。

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