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  ▼ 記者の視点
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具体化必要なレスパイト入院支援
周産期救急医療確保は構造的視点で
2009.7.24

 妊産婦の死亡につながるなど1昨年末から周産期救急医療の問題がクローズアップされているが、3月に厚生労働省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」が報告書を出すなど、周産期救急医療の政策的課題は整理されつつある。こうした論議の中で浮上してきたのが、周産期救急の2次・3次の搬送受け入れ困難事例の6割が、NICUの満床に伴うということだ。このため、NICUに対する予算措置などにも目が向き始めた。

 ただ、文部科学省が慌てて取り組んだ感もある大学病院におけるNICUの整備方針は、一部メディアに、NICUの新生児医療の専門医不足に拍車をかけるとの強い批判も呼び起こした。政府のNICU対策には、満床の基本的な原因が理解できていないところに批判の根があるが、厚労省にも、懇談会の報告書を作成する段階で、肝心のインセンティブ策に関する対応で批判も行われている。

●診療報酬に踏み込まない懇談会報告

 厚労省懇談会で委員を務めた大阪府立母子保健総合医療センターの藤村正哲総長は7月初めに大阪で行われた研修会で、懇談会では診療報酬によるNICU満床状態の解消策に関して、「医療保険診療との整合」をめぐって論議があり、結局は「政治的に解決すべきテーマ」となって、具体的な診療報酬設定に対する議論に踏み込まなかったことを報告、政府の決断を「中医協にゲタを預けた」と厳しく批判した。

 結局、診療報酬での対応を求めた委員の一部は懇談会報告直後に、「NICUの運用確保のための不可欠な方策」について、日本周産期・新生児医学会を通じる形で、舛添要一厚生労働相への要望書を提出、関連診療報酬改定要望を示したという経緯がある。

 この要望の中で、NICU満床対策として、大きな効果があると期待されているのが「レスパイト入院料加算」だ。

 レスパイトは、重症障害児の在宅療養ケアをしている家族らに対する短期的な休息を意味するもので、その間に一般小児病床が呼吸管理など短期入院機能を担うことで、結果的にNICU入院児の在宅療養へのインセンティブを与え、長期入院を減らす効果が期待されている。

 NICUは例えば大阪では、装備を持つ機関は33施設あるが、周産期救急に対応できる高機能施設は5カ所程度で、その5施設に重症児が集中し、転床や在宅化による流動性を阻んでいる実態がある。NICUからGCUへの転送も、GCUがすでに満杯状態で送れないといった悪循環に陥っている。

 こうした循環の停滞の要因は、呼吸管理が欠かせない重症児の在宅療養をためらう家族が多く、ためらううちに家族側が放置に近い形でNICU長期入院を進行させてしまうことが指摘されている。転院相談を受け持つMSWなどへの聞き取り調査でもこうした実態は深刻さを増すばかりだ。

●NICU満床の構造的解決を

 大阪府医師会周産期医療委員会小委員会が昨年2月時点で府下のNICUを調査した例では、NICUの1カ月以内の退院予定者は33%、退院予定がないは59%、分からない8%で、退院予定者の80%以上の移行先は「在宅」だ。重症児のほとんどは呼吸管理が必要であり、在宅とNICU長期入院の相関にある背景は繰り返すこともなく明らかである。

 療育機能を持つ後方病院も重症児の受け入れにはハードルが高い。レスパイトに対応できる短期入所は、呼吸器をつけていても「入院」とはならず、超重症児入院診療加算も6歳未満600点、6歳以上300点と低く、病棟単位での7対1看護が認められない現状では人員増も無理がある。

 このため藤村氏ら関係者は、レスパイト入院管理料として、呼吸管理を行う場合は6000点を新設するよう求めている。懇談会報告では、「後方病床拡充とNICU長期入院重症児に対する支援体制の充実」がそうした政策提言を示唆するようだが、これではいかにも分かりにくい。

 懇談会報告が求めるべき政策の具体性を避けたと批判されている厚労省の担当者は、大阪での研修会で「診療報酬の配分決定機能は中医協が持つと言ったまでで、ゲタを預けたつもりはない」と、報告の具体化には努力する姿勢を示したが、説得力は小さい。

 周産期救急医療の確保は、高機能周産期施設のNICU機能の改善が必然であり、そのためには長期入院重症児の転院、在宅のインセンティブが必要となり、そのためにはレスパイト入院の制度化が不可欠といったサイクルが存在していることは明白だ。もちろん、1つ1つの課題はそれぞれに小さくはないが、構造的に解決するという考え方は、結果的には実は非常に合理的なのではないかと思える。(大西 一幸)


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