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展覧会紹介 煌きのガラス

テーブルセンターピース《二人の騎士》 1920年 北澤美術館蔵

テーブルセンターピース《二人の騎士》 1920年 北澤美術館蔵
ガラスはすでに、ジュエリー制作の初期から素材として用いられていました。香水商コティとの出会いによりガラス製品の量産の機会を与えられたラリックは、1909年から工場での生産を開始し、次第に社会的な成功を収めます。金属製の型を用いたプレス成形や型吹き法など、独自の成形技術を駆使した作品の数々は、ガラスを透過する光の輝きを活かしたシャープで力強い造形で人気を博しました。同時代に活躍した印象派の画家たちと同様に、「光」こそがラリックを魅了した本質的なテーマでした。

香水瓶《カシス》 1920年 北澤美術館蔵

香水瓶《カシス》 1920年 北澤美術館蔵

花瓶《菊に組紐文様》 1912年 北澤美術館蔵

花瓶《菊に組紐文様》
1912年 北澤美術館蔵

花瓶《つむじ風》
1926年 個人蔵

花瓶《つむじ風》 1926年 個人蔵
シール・ペルデュ(蝋型(ろうがた)鋳造(ちゅうぞう)) 作品
シール・ペルデュとは、蝋でつくった原型を耐火石膏で覆い、全体を加熱して蝋を溶かし、脱蝋した後の空洞にガラスを注入して形を作り上げる方法です。古代からブロンズや貴金属製品に活用されてきた鋳造法をガラスに応用した、ラリックならではの高度な技法です。石膏製の型はガラスを取り出す際に壊されてしまうため、複製生産はできず、完成した作品はジュエリーのような貴重な一点ものとなります。
この技法の利点は、原型を細部まで精密に再現できるところにあります。完成品を鋳型から引き抜く必要がないため、他の鋳造法では困難な、入り組んだ形も作り出すことができます。高い技術を要するシール・ペルデュは、展覧会への出品作や限られたコレクターのための作品の制作に特別に用いられました。本展では、現存する数少ない作品の中から、初出品作を含む約20点を一堂に紹介します。

シール・ペルデュ花瓶《四組のセキセイインコ》 1919年 カルースト・グルベンキアン美術館蔵 (C)Calouste Gulbenkian Foundation Photo: Calouste Gulbenkian Museum Photo Lab.

シール・ペルデュ花瓶
《四組のセキセイインコ》 1919年
カルースト・グルベンキアン美術館蔵
(C)Calouste Gulbenkian Foundation Photo: Calouste Gulbenkian Museum Photo Lab.

シール・ペルデュ花瓶
《樅(もみ)の木》
1921年 北澤美術館蔵

シール・ペルデュ花瓶 《樅(もみ)の木》 1921年 北澤美術館蔵

(左)立像《噴水の女神像 ダフネ》 1924年 成田美術館蔵 (右)立像《噴水の女神像》 1924年 伊豆ガラスと工芸美術館蔵

(左)立像《噴水の女神像 ダフネ》 1924年 成田美術館蔵
(右)立像《噴水の女神像》 1924年 伊豆ガラスと工芸美術館蔵

アール・デコ博覧会、1925年パリ
20世紀初頭に流行した装飾様式である「アール・デコ」の呼称は、1925年にパリで開催された「現代装飾美術産業美術国際博覧会」の「装飾美術(アール・デコラティフ)」という言葉から生まれました。パリ中心部に会場を設け、世界各国から現代生活にふさわしい装飾芸術を集めたこの博覧会には、約半年の会期中に、1500万人もの入場者が訪れました。当時、装飾芸術家として絶頂期を迎えていたラリックは、ラリック社のパビリオン「ルネ・ラリック館」を中心に、ガラスを用いた空間演出で絶賛を浴びました。 なかでも注目されたのが、メイン会場の中央広場に建てられたガラス製の野外噴水《フランスの水源》でした。河川と泉を象徴する女神像で飾られたこの噴水は、博覧会のメインテーマ「水と光の演出」に応えて電気照明が内蔵され、夜間は光輝くモニュメントとして観客を魅了しました。本展では、噴水のためにデザインされた16種類の女神像のうち、12種類を一堂に展示します。また、自社パビリオンのダイニング・ルームに置かれた、蓮池をイメージしたテーブル・セッティングや、メティエの中庭列柱廊の扉パネルなど、博覧会をしのばせる数々の作品を紹介します。

アール・デコ博覧会絵葉書 噴水塔《フランスの水源》 1925年 ギャルリーグリシーヌ蔵

アール・デコ博覧会絵葉書 噴水塔《フランスの水源》 1925年 ギャルリーグリシーヌ蔵
スピードの世紀、カーマスコット
交通手段が著しく発達した1920年代、ラリックは高速列車や豪華客船の内装など交通関連の装飾に新分野を開拓しました。なかでも自動車のボンネットを飾る洒脱なガラス製のカーマスコットは、時代性を反映する興味深いアイテムといえます。
ラジエーターキャップに装着するカーマスコットは、それまで金属製で車種を象徴するデザインのものが主流でしたが、ラリックのマスコットはガラス製で、カラー・フィルター付の照明を内蔵することもできました。1925年の《ハヤブサ》に始まり、鷲、猟犬、馬、鳥、魚、裸婦、彗星など、発表されたデザインは約30種類に及びます。なかでも、鋳型成形独特の彫刻的フォルムでスピードの世紀を象徴した《勝利の女神》(1928年)は、ラリックのガラス作品を代表する傑作のひとつに数えられます。本展では、当時発売されたデザインの全種類と、鍋島直泰侯爵が自らボディをデザインし、実際にカーマスコットを装着していた高級車イスパノスイザが特別展示されます。

カーマスコット《ロンシャン》第1モデル ※秩父宮雍仁親王英国土産 1929年 東京国立近代美術館蔵

カーマスコット《ロンシャン》第1モデル
※秩父宮雍仁親王英国土産
1929年 東京国立近代美術館蔵

鍋島直泰侯爵のイスパノスイザに装着されたカーマスコット《勝利の女神》 1928年 鍋島報效会蔵(イスパノスイザはトヨタ博物館に寄託。東京会場のみ出品)

鍋島直泰侯爵のイスパノスイザに装着されたカーマスコット《勝利の女神》 1928年
鍋島報效会蔵(イスパノスイザはトヨタ博物館に寄託。東京会場のみ出品)

食器セット《カモメ》 1938年 ラリック社蔵

食器セット《カモメ》 1938年 ラリック社蔵
皇族・王族とラリック
ラリックのガラス工芸品は、外交における公式な贈答品としても利用されました。英国王ジョージ6世夫妻(エリザベス女王の両親)がパリを公式訪問した際、市の象徴であるカモメをデザインしたラリックのテーブル・セットが贈り物として選ばれました。一方、ラリックの作品は、我が国の皇族ともゆかりがあります。1925年の「アール・デコ博覧会」を訪問した朝香宮ご夫妻(妃殿下允(のぶ)子妃は明治天皇の第八皇女)はラリックの作品に魅せられ、白金台の宮邸(現・東京都庭園美術館)建設の際は、ラリック社製の玄関扉やシャンデリアが納められました。また、昭和天皇は皇太子時代の1921(大正10)年に外遊された際、大臣方へのお土産としてラリック社製の花瓶を持ち帰られました。本展では、その貴重な花瓶《インコ》一対(1919年、個人蔵)が初出品されます。