渡辺玲子
本番前の緊張感ということで、ヴァイオリニストの渡辺玲子さんのことを。
渡辺玲子は最年少で日本音楽コンクールで優勝するなど、すばらしいテクニックと音楽性で評価されている若手のヴァイオリニストだ。平成14年文化庁の事業で秋山和慶指揮東京交響楽団とともに詫間のマリンウェーブに来た。演目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。
この事業はおもに小・中学生を対象にした演奏会だったが、当時担当者だった僕は舞台裏の状況をみることができた。
この田舎の、しかも小・中学生が主な聴衆のコンサートだというのに渡辺玲子は緊張していた。舞台に出る直前は深呼吸していた。「手を抜く」という行為とは無縁の行動だった。実に真摯な態度だった。
僕はある意味で感動した。ソリストにとっては1回1回が真剣勝負である。聴衆のレベルは低くても中に耳の肥えた者もいるかも知れないし、共演する指揮者やオーケストラの評価もあるかもしれない。勘繰ればそういうことにも考えが及ぶのだが、それよりもむしろもっと純粋な、演奏会というものに対する演奏家の基本的な姿勢を感じた。
渡辺玲子の活躍を耳にするたびにあの日の舞台袖のことを思い出す。
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