らいぶらりぃ
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渡辺玲子ヴァイオリン・リサイタル

●日 時1998年9月18日(金)19時開演
●会 場フェニックスホール
●出 演ヴァイオリン:渡辺玲子
ピアノ:野平一郎
●曲 目モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ変ロ長調K.454
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」
ヒンデミット/無伴奏ヴァイオリン・ソナタOp.31-1
イザイ/無伴奏ヴァイオリン.ソナタ第6番変ホ長調
ヴィエニャフスキ/創作主題による華麗なる変奏曲
(アンコール)
サラサーテ/スパニッシュ・ダンス
マスネ/タイスの瞑想曲

 先週は関西フィルと共演した玲子さん、前の時は、オケの方に気を取られてしまっ て、肝心の玲子さんのヴァイオリンに集中できなかった感もあるので、今回はその雪 辱戦みたいなものです。(^^;)

 最初はモーツァルト。1楽章の前半の方でこそ、多少の力みが感じられたものの、 次第に玲子さんらしさというものが、姿を表わしてきます。音そのものは、癖がなく て、とっても素直な感じなんですね。その素直な響きが、凛として会場に響き渡って くるのです。上品で気高いモーツァルト… そんな姿が見えてくるようです。それ は、特に2楽章になって、よりはっきりとしてきます。アンダンテのテーマを、1つ 1つの音を大事にしながら、実にたっぷりと歌い上げているのです。そして、その集 中力と言ったら、もう、聴く者の心をぐっと捉えて離さないほどのものです。3楽章 も、その集中力をもって、華麗に美しく歌っていきます。ここでふと思ったのが、先 日、聴いたばかりのザビーネ・マイヤーさんのモーツァルト。彼女のクラリネット も、上品で気高いモーツァルトを演奏していましたが、玲子さんのヴァイオリンも、 まさにそうなのです。エレガント、という言葉がぴったりの演奏だったと思います。

 それが、「クロイツェル」になると、エレガントさの中に、それ以上の何か激しい 想い、のようなものが見えてきます。ベートーヴェンのこの大曲に、玲子さん、正面 から堂々と向かい合っているのです。その集中力、気迫たるものは、私達を圧倒して くるかのようです。曲自体は古典派の曲ですから、形式上、上品さのようなものは 漂ってくるのですが、また、実際、玲子さんのヴァイオリン自体、上品な音色なので すが、その上品さの裏に秘めた、熱く燃えるような力強さ、というものが、はっきり と伝わってくるのです。野平さんのピアノも、彼女を見事に支えていて、2人がブレ スする音が交叉しながら、ただならぬ緊迫感の中に、1楽章は終ります。2楽章の変 奏曲は、ちょっと雰囲気を変えて、優しくお洒落な感じになります。高いところの音 なんかも、とっても伸びやかに出ていて、好感が持てます。それでも、力強さは失っ てないのですね。決して、テンションが下がるなんてことはなくて、感じられる気迫 の度合は、むしろ、1楽章以上のような気もします。その集中力には、ただ感心する ばかりです。そして、嵐のような勢いの3楽章、その容姿からはちょっと想像できな いような程の激しさで弾いてはる様は、まさにベートーヴェンがそこにいるような印 象すら与えます。これほど、充実した内容の演奏というものも、そうないと思いま す。前半が終わった段階で、もうかなり満腹状態になってしまったのでした。(^^;

 後半は、無伴奏ソナタが2つ、続きます。ヒンデミットとイザイ、どちらもあっと いう間に終わってしまったような感じが強いのですが、その内容は、濃いぃです。曲 そのものも、短い中に、ぎゅっと技巧的な要素が詰め込まれているようですし、それ を玲子さんのヴァイオリンが、実に見事に再現していくのです。前半よりは多少、響 きの線が太くなったような感じがしたのですが、野太い、というか、とても力強い演 奏には、おぉ、と思いました。ヴァイオリン1本で、ここまで表現できる、というこ とに、改めてヴァイオリンの魅力を認識しなおすのでした…

 そして、玲子さんのヴァイオリンの魅力がたっぷりと盛り込まれていたのが、最後 のヴィエニャフスキの曲。既にCDアルバムにも録音されているからなのかもしれま せんが、実に、慣れた感じで弾いてはります。それに、この曲を確実に自分のモノと している、ということがはっきりと分かるのです。その哀愁に満ちたメロディの歌い 方なんかは、実に素敵で、ポーランド生まれのヴィエニャフスキの音楽というものを よく表現していると思います。どこか、あの「望郷のバラード」を思わせるような部 分もあったと思ったのは、私だけかしらん… また、後半に出てくる舞曲の部分での 実に生き生きとしたこと! それまでの哀愁を一気にはねのけてしまうほどの色彩感 に満ちていて、雰囲気をがらりと変えています。かなり自由な感じで、伸びやかに演 奏してはる玲子さん、いやぁ、とっても素敵な演奏でした。

 そして、アンコールは、サラサーテの「スパニッシュ・ダンス」。野平さんのピア ノが感じのいいリズムを刻み始めると… おぉ、舞台後ろの反響板が上がっていくで はありませんか。このホール、反響板を降ろしてない状態だと、正面一面がガラス張 りで、御堂筋の風景がそのままに眺められるようになっているのですね。まさか、こ んなところで、反響板を上げるとは… 演奏が進むにつれて、反響板はすっかり上が り切り、玲子さんが演奏している向こうには、大阪駅前ビルや御堂筋の夜景が見えて います。夜景をバックに、アンコール2曲目は、「タイスの瞑想曲」。う〜む、何て 素敵な演出なんでしょう。次第に舞台の照明も暗くなっていき、完全に夜景の中に溶 け込むようにして曲が終わるのでした… 素晴らしい演奏会でしたねぇ。

 演奏会後、玲子さんのサイン会の行列の中に私の姿があったことは言うまでもあり ません。(^^;)v