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記者の目:ウイグル暴動に見る中国の自治区行政=鈴木玲子(上海支局 ウルムチで)

 ◇漢族中心主義の弊害、露呈 同化より理解を示せ

 中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチ市で起きた大規模暴動は、ウイグル族と漢族の間の深い溝をさらに広げた。昨年3月のチベット暴動に続く今回の暴動では死者192人、負傷者1680人に上る。民族対立が先鋭化する中、民族共生の道筋がどうすれば見つかるのか。56の多民族が暮らす中国で、従来の自治区行政が決定的に行き詰まっている事態をさらけ出している。

 中国当局は5日のウイグル族による暴動を武装警察部隊などを大量投入して制圧した。容疑者の拘束が続く一方、7日の漢族による「報復デモ」への処罰は不明で、ウイグル族の不満は高まっていた。

 暴動後、当局が漢族の被害意識をあまりに高めたことにより、漢族の報復デモにつながり、民族対立が激しさを増した。事態悪化を恐れ、中国メディアは次第に「民族融和」を強調するようになった。自治区政府は14日、被害者救済のための募金組織「民族団結互助基金」を設立した。

 ウルムチ市内を訪れると、破壊された家屋の修復が始まっていた。だが、ウイグル族、漢族間の心の溝は簡単に埋められそうにない。

 ウルムチのウイグル族居住区で商店を営む漢族は逃げ出し、漢族経営の会社に勤めていたウイグル族が解雇される。日常を取り戻しつつある市民生活の中に、今も緊張感が漂う。顔見知りに店を襲撃されたケースもあり、双方の感情を解きほぐすのは並大抵ではない。街を行き交う街宣車から響く「民族融和」のスローガンがむなしく響く。

 「関係改善なんて無理だろう」。ウイグル族男性の運送業者(28)は嘆いた。漢族と商売柄うまく付き合ってきたという。「漢族への襲撃は暴徒がやったことだと主張しても、漢族に『同じウイグル族がやった』と言われたら反論できない」と肩を落とす。漢族の女子大生(20)は「ウイグル族の友だちとは暴動の話は避けたい。でも何だか不自然かな」と戸惑う。

 暴動による殺傷や破壊行為は決して許されることではない。だが、一方で漢族の「報復デモ」が中国国内で報じられることはほとんどない。

 あるウイグル族の運転手(28)は「交差点で止まったら漢族の男たち数十人が3人のウイグル族の若者を殴り殺していた。近くに警官がいたが何もせずにただ見ていた」と証言する。

 警察当局は連日、ウイグル族居住区で暴動の容疑者を拘束している。拘束者は少なくとも1500人以上に上り、大半はウイグル族だとみられる。「不当拘束だ」と訴えるウイグル族も少なくない。

 迷路のような幅1メートルほどの路地に並ぶ長屋で、自治区南部から出稼ぎに来たアミナさん(26)は夫(30)を連行され、途方に暮れていた。6日午後8時ごろ、自宅で幼い娘と共に夕食を囲む中、銃を構えた警官5人が突然踏み込み、拘束理由を告げずに夫を後ろ手に縛り、連れ去った。以来、何の連絡や情報もない。夫は暴動の日は街で果物を売っていて「騒ぎに加わっていない」とアミナさんは涙をぬぐった。この居住区では2日間に100人以上が拘束されたという。

 自治区では漢族が主導権を握り、トップの共産党委員会書記職には中央から漢族が送り込まれる。政府は「少数民族重視」を強調するが、1949年の建国当時約1割だった自治区の漢族人口は今や4割に近く、漢族の大量入植がウイグル族の反発を招く。そして暴動の温床には、改革開放政策で経済成長する中、所得格差が広がるウイグル族の不満がある。

 この自治区は国土の6分の1を占め、石油や天然ガスなど天然資源が豊富でエネルギー戦略上も重要な拠点だ。中国全生産量のうち原油14%、天然ガスは30%を占める。資源関連の国有企業の雇用は漢族の比率が高いとみられ、ウイグル族は取り残されている。一方、漢族から見れば、少数民族は大学進学などで合格得点ラインを低く設定され、優遇されているという不満もある。

 街で出会うウイグル族、漢族のいずれも良い人ばかりなのに、双方の根強い不信感には当惑した。10月の建国60周年に向け国内安定が最優先課題の中国だが、民族間の対立解消は困難を極めるだろう。特に少数民族の複雑な歴史・文化・慣習を漢族が十分知らないことへの不満が強い。

 例えば、ウイグル族の成年男子は顔にひげを生やすのが伝統であるにもかかわらず、自治区の行政組織や大企業でひげをそるよう求められることがある。イスラム教徒の誇りを傷つける文化的摩擦の蓄積は軽視できない。教育面も含め、ウイグル族が信仰するイスラム教への深い理解がなければ、庶民の心に響く対策は生まれない。ウルムチの事件は、各地で揺れる自治区の漢族中心主義を問うている。

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 ご意見は〒100-8051 毎日新聞「記者の目」係 kishanome@mbx.mainichi.co.jp

毎日新聞 2009年7月17日 東京朝刊

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