「讃岐(さぬき)うどん」で有名な香川県のうどん屋の中でも、高い人気を誇る「がもううどん」(坂出市)。7月最初の土曜日となった4日には、午前8時半の開店直後から50メートル以上の行列ができ、午後1時の閉店間際まで1玉130円のうどんを待つ県外客であふれた。
例年を上回るにぎわいは、高速料金の「上限1000円」政策のおかげ。高額料金の象徴的存在だった「瀬戸大橋」(最短区間で普通車3500円)など三つの本州四国連絡橋も値下げされた。関西、中国地方から四国へ観光客がなだれ込み「がもう」の駐車場には県外ナンバー車が並ぶ。
「何と言っても割安感がある」。広島市の会社員、下田規雄さん(57)は四国に車を走らせ、親類4人でうどん屋を4軒はしごした。香川県観光協会は「観光客が3~4割ほど増えた」と歓迎する。
だが、逆に客足が遠のき、苦境に陥った業界もある。兵庫県明石市と淡路島を結ぶ「明石淡路フェリー」。運賃は、普通車1台で2050円だ。近くの明石海峡大橋(最短区間で普通車2300円)の料金が1000円になり、4~6月のフェリー乗客は前年同期の31万人から19万人へ4割も激減した。
燃料高で赤字続きだったフェリーの経営状態はさらに悪化し、乗組員の3分の1に当たる16人が8月末までに退職する。国安亜津志・営業部次長は「フェリー会社だけの問題ではなく、車を持たないお年寄りなど、交通弱者も取り残される」と危機感を募らせる。
政府・与党が「高速料金1000円」に踏み切ったのは、移動コストの低減で人やモノの流れを活性化させ、景気を下支えするためだ。金子一義国土交通相は「地方を元気にする大きな効果が表れている」と強調する。
現行の値下げ策が2年間の臨時措置なのに対し、民主党は恒久対策として「高速無料化」を訴える。首都高速などを除き、全国の高速道路網を原則無料とし、利便性を大幅に向上させ、日本経済を底上げする狙いがある。
「時限的な値下げ」か、「無期限のタダ」か。ともに経済効果は期待できるが、フェリーなど他の交通機関の盛衰、車の排ガス増による地球温暖化、交通渋滞など影響はさまざまに及ぶ。次期衆院選を機に、「世界一料金が高い」と言われる日本の高速道路の在り方が問われている。
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(1)西瀬戸道 1.7倍
(2)北陸道(朝日-親不知) 1.7倍
(3)瀬戸中央道 1.6倍
(4)磐越道(猪苗代磐梯高原-磐梯河東) 1.4倍
(5)神戸淡路鳴門道 1.3倍
※高速道主要区間が対象。交通量は前年同期比。道路各社調べ。
政府・与党は3月、首都高速などを除き全国の高速道路で「土日・祝日は上限1000円」とする料金制度を導入。対象は自動料金収受システム(ETC)搭載の普通車・軽自動車。平日はトラックなども含め、3割の料金値下げを実施した。
毎日新聞 2009年7月19日 東京朝刊