2009衆院選

選択の手引 ’09衆院選

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選択の手引:’09衆院選 どうする高速料金(その2止) 負担軽減に「死角」

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 ◇借金・財源、しわ寄せ誰に

 <1面からつづく>

 高い通行料金が当たり前だった高速道路を巡り、「値下げVSタダ」の論争が過熱する。政府・与党が今春から実施した「上限1000円」政策によって週末には「マイカー渋滞」が目立ち始め、ガソリンの高騰で車離れが起きた昨年とは状況が一変した。民主党が訴える無料化まで突き進めば、人やモノの流れを根本から変える可能性も秘めている。ただ、利用者の負担軽減を強調するあまり、与野党の議論には重大な「死角」が潜む。【念佛明奈、谷川貴史】

 ◇無料化で地域活性--民主

 高速道路の無料化は、03年の衆院選以来、民主党が掲げる目玉政策の一つだ。物流コストや国民負担の軽減を通じて企業の設備投資や家計の消費意欲を刺激し、地場産業や観光の振興で地域活性化を目指している。

 無料化の経済効果について、民主党は国土交通省の資料を引いて「最大で7・8兆円に達する」と説明する。高度経済成長期から続く「高速=有料」の図式を打ち破り、道路の在り方を抜本的に見直すことで国民に改革姿勢をアピールする。

 今年3月にまとめた民主党の「高速道路政策大綱」でも、高速の原則無料化を明記した。渋滞の増加が予想される首都高速など一部で料金の徴収を続け、当面はその収入を高速道路の管理費用に充てる方針も打ち出した。

 課題は、過去の高速道路建設で膨れあがった借金への対応だ。道路関係4公団から道路資産と債務を引き継いだ独立行政法人「日本高速道路保有・債務返済機構」は07年度末で約35兆円の借金を抱える。現行は料金収入で49年度までに完済する計画だ。民主党は、その借金を国が引き継ぎ、毎年1・26兆円を60年かけて返済する仕組みを提示する。

 ただ、同党は揮発油(ガソリン)税などの暫定税率廃止により、年間で2・5兆円の国民負担を軽減するとも主張している。無料化と合わせて実現すれば、自動車関連だけで年4兆円近く財政を悪化させることになる。

 借金の返済が円滑に進むかは不透明だ。麻生太郎首相は「借金の返済などを考えないのはいかがなものか」と指摘する。民主党は国の予算で約9兆円もの「ムダの排除」を訴えるが、「実際には財政負担が増える政策ばかり打ち上げ、矛盾だらけ」(政府関係者)との批判が出ている。

 ◇受益者負担崩さず--自民

 政府・与党が大幅な料金値下げを実施したのも、高速網をテコに経済を活性化させる狙いがある。それでも民主党の無料化案と「1000円札1枚」の差が出たのは、これまで堅持してきた「受益者負担」の原則を首の皮一枚で残したためだ。

 料金を徴収し続けながら、景気の底割れを防ぐため、時限的な大幅値下げを実施した。国費の投入額を2年間で約5000億円(08年度第2次補正予算)に抑え、深刻な財政事情にも目配りした結果、「上限1000円」は土日などに限定されることになった。平日料金は3割安にとどめ、自動料金収受システム(ETC)のない車はそもそも対象外となった。複雑で、無原則な景気刺激策になった感は否めない。

 実は05年度予算で国交省が国費を投入して高速料金を値下げしようとしたことがある。だが、01年に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」が、当時の日本道路公団の事業について「02年度以降は国費を投入しない」と明記しており、財務省などの反対を受けて断念した。

 道路公団の民営化で「国民負担の軽減」をアピールした小泉政権だが、その後、1年ごとに政権が交代。「組織いじりをしただけ」とも批判された小泉改革は風化した。国費を投入した本格的な値下げが昨年10月に始まり、値下げの規模は今春の「上限1000円」政策で一気に拡大した。

 民主党で高速問題を主導する馬淵澄夫衆院議員は「政府は民主党の政策をまねただけ」と批判する。受益者負担の原則を残した理由を「料金収入は道路を造り続ける財源。無料化は国交省もやりたくないし、道路族議員にもできなかった」と分析し、道路権益に固執する「政-官」の思惑があると指摘する。

 ◇「ムダな道路」歯止めなく

 「値下げVSタダ」論争は、「今後の高速道路建設をどうするか」という問題もはらんでいる。

 国交省は4月27日、国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)を開き、4区間計71キロを高速道路の「基本計画」から「整備計画」への格上げを決定した。着工の前提となる整備計画への格上げは99年以来、10年ぶりだ。

 同会議で国交省は、料金収入と国費の双方を投入する新たな建設方式の導入を表明した。これまでは(1)「採算性の高い」路線は道路会社が料金収入で建設(2)採算性が低くても必要な路線は国費で建設し、無料で開放--の2方式だったが、不採算でも料金を取り続ける第3の方式に道を開いた。

 小泉純一郎首相(当時)は06年、「ムダな道路は造らない。(新規建設は)白紙だ」と宣言したが、そのわずか3年後に計画区間の拡大と新方式の採用がセットで決定された。政府・与党が鳴り物入りで「上限1000円」を打ち出す裏で、「ムダな道路」を建設し続ける構図が浮かび上がる。

 民主党は無料化後、国費で建設する方針だが、具体的な道筋は示していない。「料金収入」がなくなれば建設縮小・凍結を検討することは避けられなくなる。「地元に必要な道路を造れ」という党内世論を抑え、ムダな道路建設に歯止めをかけられるか、疑問は残る。

 国民生活に大きな影響を与える建設問題での議論は深まっておらず、「高速道路の在り方」の全体像は視界不良のままだ。

 ◇総合的交通対策の提示を--慶応大経済学部(財政学)・土居丈朗(どい・たけろう)教授

 高速料金を巡る議論で欠けているのは、大幅値下げや無料化で必要となる財政資金を誰が負担するのか、ということの説明だ。

 これまで高速道路の建設資金や維持・管理費は通行料金で賄ってきた。受益者に負担を求める発想だ。だが料金値下げなどを行えば財政上の負担が生じ、結果的に高速を利用しない人にまで重い負担を強いることになる。

 与野党とも経済効果など人目を引く話ばかりするのではなく、「道路を使わない皆さんの負担は重くなる。それでも賛成してほしい」と正直に訴えるべきだ。それを行わずに実行すれば、ある種、「だまし討ち」的に国民にツケを回すことになってしまう。

 高速道路の在り方を根本的に見直すのであれば、料金だけでなく総合的な交通体系をどうするか、幅広い議論が必要だ。鉄道や海運との連携、役割分担をどうするか。既存の空港の利便性を高めるため、どのような道路を造るのか。「交通網」の面だけでも検討課題は多い。

 地球温暖化問題とのかかわりも重要だ。車は鉄道などより輸送量当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が大きい。高速料金を安くしたことで利用量が増えれば、CO2排出量が増えてしまう。環境にも配慮が必要だ。

 高速道路の建設資金では、地域別に負担することも含め示す必要がある。総合的な対策を政治主導でまとめ、議論を深めてほしい。

毎日新聞 2009年7月19日 東京朝刊

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