【テヘラン春日孝之】イランのイスラム体制の重鎮で、6月の大統領選で改革派ムサビ元首相を支援したとされる保守穏健派のラフサンジャニ元大統領は17日、テヘラン大学での金曜礼拝で演説し、選挙後の混乱を「体制の危機」と表現して「我々は家族であり結束を取り戻す必要がある」と国民融和を訴えた。同時に、改革派を拘束しメディアを規制する政権の対応に異例の厳しい批判を加えた。
ムサビ氏は「選挙に重大な不正があった」と保守強硬派のアフマディネジャド大統領の再選を認めず、抗議を続けている。沈黙を守っていたラフサンジャニ氏は選挙後初めて、自らの立場を直接国民に明らかにした。
ラフサンジャニ氏は「国民の多くが(選挙結果に)疑念を抱いている。疑念を晴らすために何かをする必要がある」と指摘。選挙結果を最終承認する護憲評議会を「(開票の再集計などで)国民の信頼を取り戻す機会を持っていたのに、適切な対応をしなかった」と真正面から非難した。
さらに、政権に対し「国民を投獄して敵を喜ばせてはいけない」と数百人に上る拘束中の改革派要人やジャーナリストの即時釈放を要求。メディアへの規制緩和も求めた。
ラフサンジャニ氏は、政敵であるアフマディネジャド氏の「再選阻止」を目指し、「黒衣」としてムサビ氏を支えてきたとみられている。演説で、大統領を支持する最高指導者ハメネイ師を暗に批判するなど改革派の抗議に理解を示す一方、「我々は今まで以上に結束する必要がある」とも述べて現実主義者としての顔をのぞかせ、「体制の安泰」を図りたい意向をにじませた。
だが、ムサビ氏ら改革派勢力が、政権批判と併せて国民融和を求めたラフサンジャニ氏の呼び掛けに納得する可能性は低く、今後の情勢はなお不透明だ。
ムサビ氏はこの日、開票日以来初めて公式の場に姿を見せ、数万人の支持者が詰めかけた。目撃者によると、大学周辺では「独裁者に死を」のスローガンを叫んだ市民に治安部隊が催涙弾を発砲するなどの騒ぎが発生、少なくとも15人が逮捕されたという。演説は国営ラジオで中継された。
毎日新聞 2009年7月17日 21時07分(最終更新 7月18日 0時53分)