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「世界難民の日」に私たちが考えること

2009年6月5日

  • 国境なき医師団@世界の活動地

写真【1】スーダン・ダルフール地方の避難民キャンプにて。MSFが難民・避難民に直接援助を届けるプログラムの数は全世界で約50に上る写真【2】スーダンからの難民が暮らす、チャド東部のキャンプ内のクリニックで活動した田村助産師。新しく産まれた命とともに写真【3】スーダン・ダルフール地方の避難民キャンプで活動した菅原医師。女性たちが、色鮮やかな現地の服を着付けてくれた写真【4】スーダン・ダルフール地方の病院で活動を行った品田看護師。チームの仲間とともに写真【5】ウガンダのコンゴ難民キャンプで活動中の朝倉アドミニストレーター。テントの診療所の一部を事務所として使っていた写真【6】キャンプ内のMSFの診療所で診察を行う島川医師。過密な環境で呼吸器感染症や下痢などが多く見られ、心的外傷に苦しむ人も多かった写真【7】看護師の松本明子は栄養治療のエキスパートでもある。写真はウガンダの栄養失調治療プログラムにて

【1】 国境なき医師団(MSF)が世界で行う援助活動の半数以上は、紛争下・紛争後の地域やその周辺に集中しています。MSFはそこで、紛争や迫害によって避難を余儀なくされた難民や国内避難民が生きていくために不可欠な援助を提供しています。6月20日の「世界難民の日」を前に、MSF日本から人道援助活動に参加し、難民・避難民に援助を届け、ともに働いてきたスタッフの経験をご紹介します。生きのびるために暴力から逃れ、故郷を離れ、時に家族が散り散りになり、着の身着のままで安全な場所を探す……日本に住む私たちには遠い世界のできごとにも見える難民問題を、現実として、少しでも身近に感じ、共に考えてください。

【2】 ともに働く仲間

 助産師の田村美里は、これまでに参加したMSFの医療援助活動の中でも、コンゴ民主共和国の国内避難民キャンプと、チャドにあるスーダン・ダルフール地方からの難民のキャンプでの活動は特に印象的だったと語る。チャドでは現地採用のスタッフは全員難民で、コンゴでも避難民キャンプから通うスタッフも少なくなかった。

「私にとって難民・避難民は一緒に活動をしている仲間でした。私たちの活動になくてはならない人たちでもあったわけです。キャンプ内で何かあれば、その情報をくれるのも彼らですし、問題解決も彼らの協力なしにはやっていけないんです」

 多くの国での活動を経験してきた田村は、キャンプでの活動が好きだ、という。「彼らは常に前向き!でした。キャンプ内で仕事を見つけて働くし、自治活動もあれば市場もできるし、子どももたくさん生まれています。彼らは人間の強さ、優しさを本当に感じさせる人たちで、私に元気をくれました」

★インタビュー全文は→こちら

【3】 暴力におびえながらも、支え合う

 スーダン・ダルフール地方の国内避難民キャンプでMSFの人道援助活動に参加した医師の菅原美紗は、性暴力を受けた女性や少女、殺されかけた少年など、患者の話を聞き、診察するなかで、武器を持たない一般人が暴力に襲われる現実に、やりきれない思いになったこともあるという。

 しかし、銃声を聞いて過ごす夜が続き、不安が募った時に「私たちが美紗を守るから」と励まして力をくれたのは、その悲惨な状況を生きている病院の現地スタッフや住民たちだった。「治安が本格的に悪化して一時的にキャンプを離れることになった時も『スーダン人である私たちが責任を持ってこの病院を守っているから安心して。落ち着いたらまた戻ってきて!』と言ってくれました。私たちはお互いを必要としているんだと感じて、勇気がわきました」

★インタビュー全文は→こちら

【4】どの地にも悲しみ、つらさ、そして喜びがある

 今年1月までダルフールにいた看護師、品田裕子も、子どもを栄養失調にしてしまったとしても、たくさんの愛情を注いで育てる母親の姿など、現地の人びとの朗らかさと親切さに支えられて活動した。

「避難民になったからといって、楽しいこと、うれしいことがなくなるわけではないのです。彼らは戦闘に巻き込まれ、家族や友達を失い、自分自身や家族が重い病気にかかっても、今日を一生懸命生きていくことを大切にしていました。家族、友人で助け合う強いきずなを持っていました。平和な日本に生まれ育った私たちは彼らに同情するだけではなく、何をするべきかを冷静に判断し実行していくことが必要だと考えます」

★インタビュー全文は→こちら

【5】世界に、日本に、伝えたい

 アドミニストレーター(財務・人事管理責任者)の朝倉恵里子は、ウガンダで出会ったコンゴ民主共和国からの難民たちとの約束がいつも心にあるという。   

「容赦なくふりかかる戦闘は、避難という極限状態への出発に際し、準備の時間すら与えません。私の仕事を支えてくれたコンゴ人スタッフの一人は、難民となったとき、所持品は、自宅から拉致された際に身に着けていた赤いジャージーだけだったといいます」

 中学教師だった彼は、生徒を兵力に差し出せという政府軍と反政府軍双方の要求を拒否し続けていたが、昨年のある日、自宅に反政府軍がやってきた。彼らは妻を強姦しようとし、止めに入った妻の弟をその場で殺し、幼い娘の足に熱湯を浴びせ、彼を連れ去った。その後、何とか逃げ出した彼は、避難していた妻子と再会し、安全を求めて隣国ウガンダの難民キャンプにたどりついた。

「彼らは故郷に帰りたくても今の状況では帰れません。『将来がまったく見えない自分たちの絶望的状況を世界に知らせてほしい』と、辛い経験を話してくれた彼の訴えを、少しでも多くの人に届けたいと思います。ほとんどの難民の希望は、安全な祖国に帰還することです」

★活動に関する詳細報告は→こちら

【6】将来が見えないキャンプ

 タイ東北部のペチャブン県にラオスから政治的迫害を受けて逃げて来たモン族の難民キャンプがある。昨年10月までこのキャンプでの医療援助活動に参加した医師の島川祐輔は、鉄条網に囲まれタイ政府の軍が監視するキャンプで暮らす数千人の難民たちの行く末を今も案じている。

 「タイ政府は彼らを難民と認めず、いずれはラオスに送還する方針だったので、人びとは常に強制送還の不安の中に暮らしていました。ボランティアが開く学校の他に教育はなく、また仕事も刺繍(ししゅう)などの内職かMSFのスタッフになる以外にありません。食糧や水、医療はMSFが提供していたので『死なないで生きる』ことはできますが、将来を担う若者たちは教育や職業の経験もないままで、第三国への亡命が実現する日を待っています。

 キャンプでは子どもの数が多いのですが、母親だけでなく父親もよく育児にかかわっていました。病気の子を背負って、両手に小さな子どもの手をひいて外来にやってくるのは、半分がお父さんです。私は忙しい外来業務の日々を過ごしながら、彼らから、家庭を持って、子孫を残して、愛情を持って育てて、という命の連鎖の素晴らしさを学び、彼らのたくましさに救われていたと思います。自立して生きる術を学ぶ機会のないまま彼らが年を重ねていくことは残念でなりません」

【7】失われた「故郷」

 多くの難民援助活動の経験を持つ看護師の松本明子は、避難から戻ってきた「帰還民」の援助も重要と考える。国境を越えた難民は国際援助を受けやすいが、国内避難民や帰還民は、本来は国が保護すべき存在であるため援助の手が届きにくい。長期の避難生活からやっと帰還しても、インフラもコミュニティーも生活の糧も破壊され、以前の暮らしはすぐには取り戻せない。

「それに、家族が離散してしまった場合、『故郷』はどこにあるのでしょう」。松本が今年スーダン南部のキャンプで会った10代の少年は、コンゴ民主共和国の出身だったが、故郷で内戦が激化したためスーダンに住む叔父の所で疎開するよう両親に送り出された。しかし、その後、叔父と住んでいたその村が襲撃を受ける。民兵に捕らえられた少年は、隙をみて逃げ出し、キャンプにたどりついた。これからどうする?と尋ねると、「両親は別のキャンプにいるらしい。まずは叔父さんを探さないと」と、少年は淡々と答えた。この少年にとっては家族のいるところが『故郷』だ。さらに、避難先で生まれ育った子どもたちの場合、元の暮らしや言葉が分からないという問題も発生する。

「多くの人が避難後に元の生活を取り戻せない、帰れない、という状況は、日本でも阪神や宮城の大地震や噴火後の三宅島で起きていることを思えばお分かりいただけるでしょう。平和になったら元通り、というわけではないんです」

□もっとよく知りたい□

【難民特集】私にとって「難民・避難民」とは…

日本から援助の現場に赴いたMSFのスタッフの声を掲載中。→こちら

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■命を救うために毎日できることは何だろう

国境なき医師団(MSF)の援助活動は、皆様からのご支援に支えられています。MSFでは1回ごとに任意の金額をお寄せいただく随時の寄付をお受けしております。詳細はこちらからご覧ください。

【いただいた寄付金でできること】

▽3,000円で、はしかのワクチン170人分を購入することができます。

▽5,000円で、マラリアの検査キット100人分を購入することができます。

▽10,000円で、難民・避難民の仮住まい(シェルター)用資材4世帯分を購入することができます。

▽30,000円で、紛争や災害でけがややけどを負った人びとを治療するため、医療用包帯を150セット用意できます。

★――1日50円キャンペーン――★

1日あたり50円または任意の金額を、1カ月ごとに口座から振り替えていただく継続的なご寄付の方法です。安定した資金が確保できるため、緊急事態へのより迅速な対応が可能となり、またより長期的な視野に立ったプログラムづくりを可能にする支援方法です。ぜひご参加下さい。お申し込みはこちらからどうぞ。

【いただいた寄付金でできること】

▽1日50円×1カ月=栄養失調の子どものための治療食を1カ月に約40食提供できます。

▽1日100円×1カ月=1カ月間120人の難民・避難民に基礎的な医療を提供するための医薬品を揃えることができます。

■海外派遣に興味をお持ちの方へ

MSFでは海外派遣スタッフを常時募集しています。活動に興味をお持ちの方ならどなたでもご参加いただける「海外派遣スタッフ募集説明会」を毎月開催しています。6月は東京、大阪、長崎、福岡で開催します。

●東京説明会

【日時】6月12日(金)18:30〜20:30

【場所】MSF日本事務局(新宿区馬場下町1−1早稲田SIAビル3階)

●大阪説明会

【日時】6月19日(金)18:30〜20:30

   6月20日(土)13:30〜15:30

【場所】piaNPO(大阪市港区2―8―24)

●長崎説明会

【日時】6月26日(金)18:00〜20:00

【場所】長崎大学熱帯医学研究所(長崎市坂本町1―12―4)

●福岡説明会

【日時】6月27日(土)13:00〜15:00

【場所】アクロス福岡(福岡市中央区天神1―1―1)

参加希望の方は、参加申込みフォームまたは電話(03―5286―6161)にて事前にお申し込みください。

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