きょうの社説 2009年7月15日

◎問責決議案可決 審議拒否して廃案は無責任
 民主党が衆参両院に内閣不信任決議案と首相問責決議案を提出したのは、都議選に大勝 した勢いに乗り、早期の衆院解散・総選挙に追い込むほかに、今後の法案審議を拒否する狙いもあるのだろう。民主党には、アキレス腱ともいえる鳩山由紀夫代表の政治献金問題を鎮静化させたい思惑も透けて見える。

 参院での問責決議案可決に伴う審議拒否で、北朝鮮に出入りする船舶を検査する貨物検 査特別措置法案は廃案に追い込まれる。国連安全保障理事会の決議を受けた法案は、北朝鮮に圧力をかけ、国際社会との連携を示すためにも早期成立が求められている。「次期与党」を目指す民主党がそんな重要法案をあっさりと廃案にするのは無責任ではないか。

 鳩山由紀夫代表は、もともと「国連安保理が全会一致で採択した決議は尊重されるべき だ」と語り、与党との協議に応じる姿勢を示していたはずである。臓器移植法改正案の採決を急いで成立させておきながら、貨物検査特別措置法案については、「廃案やむなし」の冷淡な態度なのは、面倒なことに手を出さず、先送りしたいというのが本音だからだろう。

 貨物検査特別措置法案は、海上自衛隊の活動を可能にしているため、社民党が難色を示 していた。党内の左派勢力にも反対の声があったといわれる。選挙後の連立政権をにらんで、野党共闘にヒビが入るのを避け、党内の不協和音を封じ込めようとしたのだとすれば、先が思いやられる。

 民主党を中心とした政権ができたとき、外交・安全保障政策はどう変わるのか。米国と の関係が悪化したり、北朝鮮への「圧力」が緩むことはないのか、不安に思う国民は少なくない。国家の根幹にかかわる部分をあいまいに捨て置いて、子ども手当の創設や高速道路無料化など、口当たりのいい新規事業を並べるだけで、国民の目をごまかしきれるとは思えない。

 民主党は国民に対して、外交・安全保障に関する明確なメッセージを送るためにも貨物 検査特別措置法案の可決に積極的に協力すべきだ。その方が百の抽象論を並べ立てるよりずっと説得力がある。

◎南砺の至宝展 加賀藩の遺産を再認識
 南砺市の福光美術館で、藩政期から同市内で所蔵されてきた屏風の名品を集めて開かれ ている「南砺の至宝展」は、加賀藩の豊かな文化土壌が、そのまま県境を越えたゆかりの地でも脈々と受け継がれていることを再認識させてくれる。

 南砺市内では、現在も城端地区の曳山祭の山宿をはじめ、一般民家の座敷で催される祭 礼、慶事などで、欠かせない舞台装置として屏風が飾られるという。

 藩政期においては、屏風も室内の各種調度品と同様に、所蔵者の文化的ステータスを示 すものであり、そんな屏風文化が生活の中に脈々と息づいている南砺市が、もてなしの質の高い土地柄であることが分かる。

 今回は、市内の個人宅や寺院などで所蔵されている12点が展示されているが、加賀藩 のお抱え絵師であった佐々木泉玄の「吉祥図」や、江戸後期の画家岸岱(がんたい)の「虎図」といった良質の作品群をみれば、これらを守り伝えてきた南砺の人たちの加賀藩への愛着の深さと、加賀藩文化の浸透度の濃さが推し量られよう。

 南砺市は、県境をはさんで接する金沢市との間で、昨年から、藩政期に火薬の原料とな る塩硝(えんしょう)を五箇山から金沢へ運んだ「塩硝の道」をテーマにしたフォーラムを交互に開催している。

 塩硝の道の現地調査などで連携することはもとより、先に湯涌温泉で開かれた2回目の フォーラムでは、昨年夏の豪雨でともに水害に遭ったことから、互いの復興も誓い合ったように、藩政期からの歴史文化を共有する両市であればこその濃密な交流が進んでいる。

 全線開通した東海北陸自動車道の有効活用、さらには5年後に迫った北陸新幹線の金沢 開業に向けて、県境をバリアのように位置づけていては、観光をはじめとして大都市圏から人を呼び込み、ビジネスを活性化させる可能性が限定されてしまいかねない。

 今回の至宝展をはじめ、さまざまな分野で、幅広い「加賀藩交流」を進めることで、あ らためて両市のきずなの深さを確かめ、県境を越えた広域連携につなげたい。