鹿児島市の夫婦殺害事件で、殺人などの疑いで同市三和町の白浜政広容疑者(70)が逮捕されて9日で10日を迎える。現場に残った白浜容疑者の指紋という決定的物証を基に鹿児島県警捜査本部は逮捕に踏み切ったが、動機や被害者との接点などを解き明かす捜査は進んでいない。白浜容疑者が捜査本部の調べに対し「被害者宅に行ったことはない」などと容疑を否認しているからだ。供述を得られず、困惑する捜査本部。聞き込みなどで全容解明に向けた捜査をしている。
同市下福元町の蔵ノ下忠さん(91)方で、忠さんと妻ハツエさん(87)が自宅で遺体で発見されたのは6月19日朝。恨みと強盗の両面で捜査していた捜査本部は同29日、白浜容疑者を逮捕した。決め手は蔵ノ下さん方で荒らされた洋服だんすなどに残った指紋。かつて事件を起こしたことがある白浜容疑者のものと一致したのだ。
捜査本部によると、白浜容疑者は逮捕後、「下福元町に行ったことはない」「被害者夫婦は知らない」などと容疑を否認しているという。
被害者宅から約6キロ離れた場所に住む白浜容疑者。被害者家族も「知らない人物」と口をそろえる。白浜容疑者と被害者の接点はあるのか。捜査本部は聞き込みのほか、被害者宅近くのコンビニ店やパチンコ店から防犯ビデオの提供を受け、事件当日も含めて白浜容疑者の足取りをつかもうとするが、難航している。
動機も不明のままだ。白浜容疑者は昨夏から、姉夫婦の家に身を寄せた。日ごろ年金の一部を食費として姉に渡していたが、事件前はパチンコ代に使って渡していなかったことが判明。「少なくとも数十万円の借金があった」として、捜査本部は金に困った末の強盗目的の犯行とみて捜査している。
しかし、白浜容疑者の姉は「パチンコはたまに行く程度」と証言。また、白浜容疑者は年金のほか、大工の経験を生かし近所の住民の家屋を修理して謝礼を得ることもあり、中古車も自費で購入したという。白浜容疑者が金に困っていたという実態は見えず、被害者宅から盗まれた物があるかどうかも不明だ。
逮捕直後、ある捜査関係者は「逮捕するのが早かった。被害者との関係などをもっと詰めてからでもよかった」と話した。その懸念が現実となってきている。「起訴までに全容を明らかにする」と自信を見せる捜査本部。20日の拘置期限までに、どれだけ事件の真相に迫れるか。
=2009/07/09付 西日本新聞朝刊=