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暮らしのココロ

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私は無駄に洋服を持っている。なので、たまに整理するのだが…、最近、捨てるのをやめて、古着屋さんに売るようにしている。売ったほうが気持ちがラクなのだ。「まだ着れるものを捨てる」という罪悪感がなくなって、ほっとする。しかも少々だがお金がもらえる。 古着って、不思議な存在だ。身につける大切なものなのに、どこからともなく集まって来て、どこかへ売られていく。古着って何だろう。古着の匂いも独特だ。あの匂いって何なんだろう。そう思って、古着店がたくさん存在する、東京・高円寺にあるお店「シランプリ」の店主・山下陽光さんにお話をきいた。

――「シランプリ」さんって、お香をたいてないんですよね。どんな古着屋さんも、匂い消しのためにたいてますよね。なんでここは、たかないんですか?

「古着って、僕の知る限り、ほとんど洗濯してないんですよ。だから古着の匂いは、それぞれの家のタンスの匂いなわけで…通常の古着屋は、それを誤摩化すためにたいてるんでしょうね。ウチはお香をたくのがイヤなわけじゃないんですけど…、猫(看板猫がいます)が嫌がるんで、やってないですね

――え、そんな理由!?

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看板猫のランちゃん。近隣のアイドル。

「立地的に風通しがいい、っているのも、ありますけど」

――噂にきいたんですけど、山下さんて「気になった古着は、いちおう匂いをかいでみる」らしいじゃないですか。それはやっぱり、商品になるか、 ならないかのチェックなんですか?

いや、たんに好奇心ですねえ

――こんなタバコ臭いの売れないよ! みたいな、マイナス面のチェックでは無いんですね。

シミがついてるとか、そっちのほうが買い取れませんね。匂いで駄目というのは、あまりないですね

――「ああ、この人、毎日焼きそばばっかり食べてる!」とか、そういうことって分からないですよね…。服につく匂いって、脱臭剤と、タバコと、香水、あたりでしょうか。

あと、その人、本人の匂いですね。僕もこの店がオープンする時に自分の私物を出したんですけれど、『これ、山下くんのでしょう、山下くんの匂いがする!』って、周囲に一発でバレましたよ

――ああ、気が付かないけど、個人個人の匂いってありますよね。

古着の匂いに関する思い出でいちばん印象的だったのは…、お嬢さまな感じの女性の家に行って、買い取りした時、あま~いルームフレグランスのニオイがしたんですよ。 持ち帰っても、同じ匂いが服からするわけです。嗅ぐたびに、部屋を思い出しちゃって…。それから、古着の匂いから、部屋を想像するようになりましたね

――じゃあ、時々嗅ぐって感じなんですね。…私も古着を買った時、嗅いでみて、妄想してみます!

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お店は、靴も扱っています。「ヒールの減り方で、その人の足のクセは分かりますね」と山下さん。

――ところで、古着を売る時に、気をつけるべきことを教えていただきたいのですが…。

「ポッケに入っているものは、出してください」

――ああ、ポケット。

「よく使いかけのリップクリームとか入っているんですよね。いっぱい出て来ますよ。家の鍵とか、大切なものが入っているケースも」

――それはまずいですねえ。

あとは、基本は、洗ってあればいいです。一番困るのは猫の毛ですかねえ、そういう場合は再度、洗濯しなきゃいけない

――今、高円寺って、「古着の町」として町おこししているらしいですね。昔は、高円寺の古着って、ちょっと泥くさいイメージでしたが、今はお洒落で…。

かっこいいんだけど、原宿とかと比べると泥臭い、ドンくさい。『ネオどんくさい』という感じでしょうか

――私は「地に足がついたお洒落さんが現れた! ニュージェネレーション!」と思っているんですが。こう、旧来の古着店じゃなく、 変わった古着のセレクトショップだったり、 古着をリメイクして新作として売っていたり、新しい価値観の古着店が多いですね。

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「シランプリ」でも、オリジナルのリメイク古着を売っています。

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オリジナルの靴も。かわいい。

「ウチはどちらかというとリサイクルショップに近いんですが…。服飾の学生さんが、リメイクのベースとして、安い古着を買いに来るケースもありますね」

――面白いですね。

「僕はフリマで服を売っていたのがキッカケで、古着店をやるようになったんですが、古着って『どこから来たのか分からない、1点モノ』 がいちばん面白いと思うんですよ。これなんか、スカジャンなんですが、コリア模様になってる。色も日本人感覚にはない、チマチョゴリの伝統色。どこで作って売って、日本にやって来たのか、さっぱり分からない。何歳くらいの人が着ていたのかも想像出来ない。でもすごく気に入ってるんです。」

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確かに、日本製には見えないスカジャン

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戦隊モノのヒーローっぽくも見えます。

―これ、欲しい人は欲しいけど、欲しくない人はぜんっぜん欲しくなさそうな服ですね…。

「そういう服を集めたセレクトショップを、やってみたいですね。頑張れば集められそうな気がするんですけどね。 あともしくは、全品無料の店」。

――無料!?

「古着をかけておいて、無料にして持っていってもらって…、古着を持って来る人には持って来てもらって。そういうの出来たら面白いと思うんですけどね」

――無人野菜販売所みたいですね。

「無料の店、作りたいなあ」

――収入源はどうするんですか?

「2週間は無料の店で、次の2週間はセレクトショップだったり…」

――斬新ですね。古着店の革命児ですね。

「いや、わかんないですけど(笑)」

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店主・山下さん。韓国スカジャンでキメ!

そういえば今、リサイクル意識の高まりや不況のせいで、古着ブームなのだそう。若年層の間では、古着と新しい服をミックスさせて着るのが、「とてもお洒落」な行為になっているんだとか。実際杉並区は、高円寺を「古着の町」として町おこし中で、若いクリエイターをフィーチャリングしたイベントなどを行っている。服飾系雑誌「装苑」最新号では古着店が特集されたりもしている。

今、古着はホットなのだ。 貴方も、高円寺で古着を売ったり買ったり、さわったり嗅いだりすると楽しいと思います。運命の一着に、出会えるかもしれません!

取材協力:シランプリ
http://keita.trio4.nobody.jp/shop/10.html


大塚 幸代

大塚 幸代(おおつかゆきよ)
1972年埼玉生まれ。学生ライターを経て、1996年~2001年まで雑誌『クイック・ジャパン』編集部に在籍、現在フリー。ネット、雑誌を中心に活動。『「ライ麦畑」の正しい読み方』(飛鳥新社刊、共著)発売中。
> 個人サイト 日々の凧あげ通信


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