生徒に「金八先生」のようだと慕われる私立高校の男性教師が、「学校から退職を強要されている」と学校側を訴える裁判を起こしています。取材を進めると、私立学校を取り巻く複雑な現実が見えてきました。
熱心に授業を行う1人の男性教師。しかし、その前に生徒はいない。埼玉県杉戸町にある私立昌平高等学校の国語教師・今村寛さん(50)。学校側が「模擬授業」と称する研修で、今村さんは今年4月から週に7時間、この研修だけを続けているといいます。
「生徒がいると想定して授業を50分間授業をやりなさい、と。『予想通りひっかかったな』とか言いながら想定してやっていく」(今村寛さん)
今村さんは、研修開始から2週間で体調を崩しました。さらに・・・
「私が教師をやること、授業をやることは、社会の不幸だと言われた。ここまでくると、十分『パワハラ』と呼んでおかしくない」(今村寛さん)
今村さんはこの「模擬授業」は学校側による退職の強要にあたるとして、その禁止を求める訴えを起こしました。学校は、なぜ「模擬授業」を指示したのか?裁判での学校側の主張はこうです。
「今村さんは教師として不適格」
「学校側が教員に実施した学力テストなどで必要な点数に達しなかった」
「改善を促すため研修を命じた」
昌平高校側は、「授業の質を高めるための当然の指示だった」と反論しています。
今村さんと学校側の対立の背景には、現在の私立高校が置かれている環境がありました。この10年あまりの間に、私立高校の入学者数は急速に減少。入学定員に達しない高校は76%にのぼり、経営困難に陥った学校は抜本的な改革が急務となっています。
昌平高校も例外ではありませんでした。3年前に経営陣が交代し、大手進学塾の社長を理事長に迎えるなど、積極的に改革を断行。その結果、大学進学率の向上など一定の効果が表れたといいます。
しかし、昌平高校のある教師は・・・
「私自身も進学校にするのは反対ではなかったが、ただ今まで頑張ってきた人を見殺しにする使い捨てだった」(昌平高校現役教師)
昌平高校では、この2年間で50人もの教師が次々と退職しているのです。専門家は、学校の役割についてこう話します。
「高校が塾と違うのは単に授業だけではなくて、幅広い人間性を養うのが高校に期待されている使命だと思う」(東京大学教育学部 小玉重夫教授)
今村さんの周囲では、教え子らの支援の輪が広がっています。
「分かりやすく言うと『金八さん』みたい。人を思いやる気持ちとかを先生からすごく学んだ」(19年前の教え子)
「生徒のいる教室で授業をしたい」。今村さんは、学校側に対し断固として闘っていくといいます。(09日17:55)