2006/09/04
マンスリーレポートのコーナーでは、建設ITのキーパーソンに毎月、インタビューしていきます。9月は前田建設ファンタジー営業部の皆さんにご登場いただきます。「マジンガーZの格納庫を実際に造ったら、何億円でできるのか」といった課題にプロの男たちが大真面目に取り組み、その過程をWEB上に公開することで、世の中の注目を集めています。そのウラ話を4回にわたって紹介しましょう。 |
前田建設工業 経営管理本部総合企画部経営企画グループ 課長 岩坂照之氏(写真中央) 経営管理本部総合企画部経営企画グループ 課長 上田康浩氏(写真左) 建築本部建築部技術支援グループ 主任 東間敬造氏(写真右) |
―――前田建設のファンタジー営業部とは、どんな組織ですか。
上田 もちろん、正式な組織ではなく架空の営業部ですよ。(笑) メンバーについては入れ替わりがあったりしますが、5人くらいでやっています。このほか、"準部員"といいますか、半固定的なメンバーもいます。
―――なぜ、このような営業部が発足したのでしょうか。その経緯を教えてください。
岩坂 一応、私が言い出しっぺです。私が入社した13年前から現在に至るまで、ゼネコンは皆さんからおしかりを受けるようなこともありました。最近、ES(従業員満足度)とCS(顧客満足度)はイコールでないといけないという説があります。
そこまで、スマートな理屈でわかっていた訳ではありませんが、どうも「自分の仕事ってなんだろう」と考える機会が多かったものですから、建設業をよく思ってもらいたい、自分たちの仕事をよくわかってもらいたい、という思いが直接的なきっかけでしたね。
それは私がトンネルなどの現場で仕事しているときから感じていました。しかし、何をしていいかどうかわからない。しばらく問題意識だけはありましたね。
そんなとき、ホンダのロボットを見たのです。アシモ君の前の型ですが、ロボットそのものよりも、ロボットを見て感動している人たちにビックリしたのです。そのとき、自分が子供のころ見ていたマジンガーZが頭に浮かびました。
もう一つは、昔のヒーローやアニメを使ったCMが流行していました。それで、当社でやるなら、アニメなどは著作権料が高いだろうな、脇役だったら安いんじゃないか、などと発想を転がしていっていったとき、マジンガーZの高出力研究所が浮かんだんですね。
その瞬間に当社ではロボットは造れないけど、基地は造れるじゃないかと気がついたのです。その過程を真剣に検討して、WEBで公開したら、みんなみてくれるだろうと思い立ちました。1999年のことでした。
記念すべき「マジンガーZ」編の第1回のページ。 |
―――思い付いたのはよいとして、正式な業務としてはなかなか認められなかったのではないかと思いますが、どのようにしてクリアされたのですか。
岩坂 自分自身ではこれは絶対いけると思ったが、一方では不安もあった。そこで隣の上田さんに、業務が終わったあとに、こっそりと相談しました。「そりゃ面白いじゃないか、いけるよ」ということを言ってくれたものですから、これは実現するしかないと思って、コアメンバーとなる仲間を集めました。
そのころ、幸いなことに総合企画部という、広報グループのすぐ隣の部署に異動になっていましたので、急いで企画書をまとめ、上司や広報部長に説明しに行ったのです。
しかし、マジンガーZの基地を造る検討をWEBで公開するというのは、あまりにも突拍子もないアイデアですから、わかってもらえない。「ウチがマジンガーZを造るのか」という人もいたりして。
結局、プレゼンテーションを終わっても、わからないので「とりあえず、仮のホームページを作ってみろ」ということになり、作りました。それでも、わかってもらえなかったようです。
でも、自分たちの熱意は伝わったようで、「考えていることはよくわからないが、ともかく気合いは入っているようだし、お金もかからないようだし、ダメならやめると言っているし、やらせてみようか」ということで、一応、お許しが出たのです。
業務時間外でやることと、社有財産は使ってもよいという条件でした。2002年の夏頃でした。うれしかったですね。
―――まさに「構想3年」のビッグプロジェクトだったわけですね。
岩坂 構想していたのか、足踏みしていたのかわかりませんが。最初の1999年当時は、国内留学で学生をやっていました。外に出ているという環境でアイデアが浮かんだのかもしれません。
計画実現のきっかけは、2002年に私が総合企画部に異動になったのが大きかったと思います。周りに、話をわかってくれそうな先輩や広報の人たちがいましたから。
第1回に掲載されているマジンガーZの格納庫の営業情報速報 |
岩坂 ウチの会社だけではできないということがわかったのが、最初のハードルでした。格納庫には何トンもあるマジンガーZを昇降させるエレベータという機械がありますから。
しかし、我々は「タダでやります」といっていますから、他社にお金を払って見積もりしてもらうわけにはいかない。また、協力会社にサービスでやってもらうのも気が引けました。
そこで、日本の名だたる機械メーカーなどのホームページにある「お問い合わせ」のコーナーに、片っ端から企画の趣旨と自分たちの熱い思い書き込んで、マジンガーZ用のエレベータの設計と見積もりのお願いを送ったのです。今から思えば、「暴挙」でしたね。
しかし、なんと意外なことに、協力してくれるという3社から返事がありました。日立造船、栗本鐵工所、そして関係会社の前田製作所です。うれしかったです。
一方、丁寧なお断りのメールも来ました。「できれば個人的にはお手伝いしたのだけど、社の事情があって残念ながら協力できません」と。本当に長いお断りのメールをいただき、同じ技術者として感動しましたね。
どちらかというと「重厚長大」といわれるメーカーばかりでしたので、各社も従業員の満足度ややる気、社会的意義など、もしかしたら自分たちと同じようなところで悩んでいるのかなと思ったりしました。勉強になりましたよ。
このときの感動があったから、その後、連載がきつくなったときにも筆が止まらなかったのです。
協力してくれる企業はその後、増え、次のプロジェクトとして銀河鉄道999の高架橋を手がけたときは、三菱重工業、JR東日本、JFEエンジニアリングが協力してくれました。
現在の前田建設ファンタジー営業部では、第4弾のプロジェクト「世界初、民間国際ロボット救助隊を創ろう」の連載が始まっている |
―――社内で協力してくれた人は、個人的にこんなことが好きな人だったのですか、それとも業務命令で仕方なくやってくれたとか。
上田 協力してくれそうな人を狙って頼んだわけではありません。初めはみんな驚きます。「何で、マジンガーなの」と。しかし、検討する内容は実務でやることと同じですから、やり始めると技術者の血が騒ぐのか、一生懸命やってくれました。
岩坂 なかには上司の人の方が共鳴してくれて、部下の人がなんだかわからないけどやらされている、というパターンも正直言ってありました。そのときは私の情熱で、やる気になってもらいました。
しかし、担当者自身が好きで、要求以上のものを作ってこられて、こちらが鳥肌が立つ、ということもありました。こちらのパターンの方が多かったですね。
●前田建設ファンタジー営業部関連の記事へのリンク 熱血ストーリー!前田建設ファンタジー営業部の“ウラ話” 【第1回】マジンガーZプロジェクトが生まれたきっかけとは (2006年09月04日) 【第2回】「ああ、鉄筋が!」銀河鉄道999の高架橋はRC構造だった (2006年09月11日) 【第3回】締めて72億円也。マジンガーZ格納庫の見積書発表でブレーク! (2006年09月19日) 【第4回】“マジンガーZ効果”は、広告費換算で1億円以上。国際救助隊も発進!(2006年09月25日) |
<<コメントに関するご注意>>
©1999-2009 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載している記事、写真、図表などの無断転載を禁じます。著作権は日経BP社またはその情報提供者に帰属します。掲載している情報は記事執筆時点のものです。
コメントの投稿
※この記事に対するコメントを投稿できます。ログインするとコメント投稿画面を表示します。非会員の方は、右記の「ご意見受け付けフォーム」からコメントを投稿できます。 →ご意見受け付けフォーム