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  ▼ 記者の視点
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ドクヘリ全国配備で新局面
3つの節目の年を機に
2009.7.8

 ドクターヘリの全国配備を求めて導入を推進してきた医療、救急関係者らの声が一段と強まりそうだ。3つの意味で、今年が節目の年に当たるという事情が背景にある。
 まず、推進母体のNPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)が6月に設立10年を迎えた。先月、都内であった記念シンポジウムでは、ドクターヘリ導入に必要な環境が整ったとの認識が示された。

 HEM-Net理事長の國松孝次氏が評価するのが2007年6月に成立した特別措置法で、「国の法律でドクターヘリの意義を明確に示した点で意義があった」と語る。

 それを受けて厚生労働省や総務省など関係省庁も連携、全国配備に向けた環境整備を進めてきた。3月には都道府県の負担が2分の1だった運航費用について、その半分を特別交付税化して軽減する措置を講じた。運航費用は1機1億7000万円とされ、財政事情が苦しい県の導入障壁を撤廃するのが目的だった。関係者は総務省の“英断”と評価する。

●助成金交付法人第1号に

 2つ目の「節目」は、HEM-Net自体が先月8日に、ドクターヘリ特措法が規定する「助成金交付事業を行う法人」の第1号になったことだ。記念シンポでは、ドクターヘリのハードの導入を働き掛けるだけでなく、全国配備を見据え、法人として人材養成など、ソフト面の準備を本格展開する局面を迎えたとの認識が参加者から示された。

 巡航速度200キロのドクターヘリは、半径50キロ圏内なら約15分で現場に到達できる。「全国民が15分以内に適切な医療を受けられる体制を」と、HEM-Netと表裏一体で活動してきた日本航空医療学会は、運航に携わる拠点病院に人材養成機能を担ってもらう構想を暖めている。

●人材養成も本格化

 学会理事で日本医科大教授の益子邦洋氏は、医師や看護師を受け入れる「フェローシップ制度」を稼働させる考えを披露した。助成金交付法人としてのHEM-Netは今後、人材養成などの充実に向けた側面支援をする計画で、「具体的にはこれから」(國松氏)だが、企業から寄付を募るなどして活動を展開していく。

 最後の節目は、ドクターヘリの運航費用を医療保険で賄う是非を政府内で議論する時期に当たるということ。ドクターヘリ特措法は付則で、「施行後3年を目途として診療に要する費用負担の在り方を勘案し、所用の措置を講ずる」とした。

 HEM-Netは記念シンポの1週間ほど前に、ドクターヘリで搬送された患者は、救急車で運ばれた人より入院期間が短く、診療報酬点数も低いとする調査報告書を公表した。

 搬送患者の重症度など、条件をできるだけそろえ客観的な比較が可能な工夫をした。救急車よりも速く現場に到着し、早めに救命処置を開始できるという機動性に加えて、医療経済上も有効であるというエビデンスを、中央社会保険医療協議会(中医協)で議論されることも念頭に置いてアピールした格好だ。

 08年度改定について議論した中医協・診療報酬基本問題小委員会は07年10月に、「議論する段階ではない」と診療・支払い側双方の認識が一致してドクターヘリの検討を見送った経緯がある。社会保障費の伸びを抑制する2200億円が重くのしかかっていたこともあり、「保険財源を運用費に充てる考えはそぐわない」などと、日本医師会も難色を示した。

 ドクターヘリは飛行1回当たり約40万円の経費がかかる。その一部を医療保険でカバーする論点が、中医協で再び俎上に上るのか―。ドクターヘリ特措法の宿題は、回答期限まで1年を切っている。(田部井 健造)


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