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  ▼ 記者の視点
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医療者・国民の「役割」は誰が決めるのか
迫る総選挙、医療政策国民フォーラムの提言に思う
2009.7.3

 民間シンクタンクのNPO法人日本医療政策機構が、次期総選挙で各党に提言する政権公約(マニフェスト)に盛り込むべき医療関連の重要課題を公表した。同機構の提言をまとめた「医療政策国民フォーラム」は、今日の医療政策策定に深く携わる有識者、医療提供者、ジャーナリスト、患者団体など30人余りに及ぶ豪華な顔ぶれ。絞り込んだ重要課題は<1>安定財源を確保し、急性期医療に集中投資する<2>自立的な専門医制度を確立し、医療の質と安全性を向上させる<3>政策決定プロセスを透明化し、広く国民の声を反映する仕組みを制度化する―。

●「不信の連鎖」見つめ直す時期に

 今回の提言の中で新鮮なのは、「政治・行政への陳情」型の提言を避け、参加者がそれぞれの立場の「役割」を明確化した点だ。医療提供者の役割には、負担増に対する理解を得る努力や組織自浄能力の確立、医療の「見える化」、市民・患者には医療を守り、育てる意識やコンビニ受診の抑制などを挙げている。

 振り返ると、近年の医療をめぐる諸問題の根幹には「不信の連鎖」が見える。医療事故が明るみに出てきたのを発端に、患者たちは医療現場に不満をぶつけるようになった。
 過労に悩む現場医師は、時に「モンスターペーシェント」といった言葉を使って矛先を患者に向ける。財源の獲得に忙しい医療界は「役所は現場を無視している」と行政を責め立てる。行政機関は慢性的な財源不足と縦割りシステムをはじめとする複雑な内部機構に頭を抱え、不安定な政治動向をうかがう。適正な行政執行を監督すべき政治家は政権獲得に向けたアピールと、国民にとって聞き心地の良いシナリオの準備に余念がない。

 誰もが「自分は一生懸命」だと言い張り、「つらい」「苦しい」と嘆きながら築き上げられたぎすぎすした関係がまん延している。これを解消するため、それぞれの役割を冷静に見つめ直そうという今回の提言の趣旨には賛同したい。

●依存と責任転嫁では解決困難

 ただ、この「役割」とはいったい誰が決めるものなのか。最近は社会保障をめぐる政府関係の議論でも、医療や社会保障を持続可能にするため、国民に負担の「役割」を迫る場面が頻繁に見られるようになった。一定の負担が必要という議論は理解できるが、個人の「役割」が政治・政策レベルで話し合われると、かつての「お国のために頑張りましょう」のようなきな臭いスローガンを連想してしまうのは、記者だけだろうか。

 総選挙が迫る。社会保障の再建のための負担の議論は、避けて通ることのできない大きな争点の1つとなるだろう。

 高齢化が進み国民の医療に対するニーズが多様化する中で、医療側が自ら透明化を図り、国民が医療を守ろうとする努力も必要だ。今までのように誰かに一方的に依存し、うまくいかない責任を誰かに押し付けるだけでは問題が解決しないところまで来ている。

 だが、個人の「役割」は誰かに押し着せられるものではなく、自立した個人が自ら考えて決めるものだと思う。誰だって自分の興味のある仕事には熱心に取り組むが、誰かにやらされる仕事は嫌がる。「1人1人が少しずつ考え方を変えることで、本当の信頼関係が構築されて社会全体がよくなる」。今回の総選挙がそんな議論のきっかけになればいいと思う。(岩崎 知行)

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