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少年院送致:年齢引き下げの07年法改正後、14歳未満は3件 1件取り消し

 少年院収容年齢を14歳以上から「おおむね12歳」に引き下げた07年11月の改正少年法施行後、14歳未満を少年院送致とした決定は3件しかなく、うち強盗などの非行内容で、当時13歳の中学男子生徒を送致するとした新潟家裁新発田支部の決定(08年7月)は、東京高裁に取り消されていたことが分かった。少年院送致決定取り消しは極めて異例で、差し戻された新潟家裁は改めて保護観察処分とした。法の厳罰化が進む一方、慎重な司法の姿勢がうかがえる。【川名壮志、坂本高志】

 触法少年の処遇を巡っては、一般に「育て直し」を重視し、社会の中で更生させる保護観察や、厚生労働省が管轄する児童自立支援施設に入所させることが多い。しかし、12歳の少年による長崎市の男児誘拐殺害事件(03年)などの重大事件が相次ぎ、07年に法改正された。最高裁によると、改正後少年院送致が決定した2件は、いずれも13歳の中学生による放火事件。小学生のケースはない。

 関係者によると、送致の決定を取り消された男子生徒は昨年5月ごろ、ほかの生徒と共謀、学校内で同学年の女子生徒の手をひもで縛って約3000円を奪い、頭をたたくなどして約10日間のけがをさせた。児童相談所は約2カ月後、強盗と傷害の非行内容で家裁送致し、新潟家裁新発田支部は「事件の重大性や家族環境を考えれば矯正教育が必要」として初等少年院送致を決め、生徒は収容された。

 しかし、生徒側が抗告し、東京高裁は同9月、新潟家裁に差し戻した。年齢と非行内容から「決定は厳しすぎる」と判断したとみられる。新潟家裁はいったん試験観察に変更し、最終的に今年3月、保護観察処分にした。

 生徒の付添人は「被害者の生命にかかわるような事件ではなく、家庭環境も極端にひどくはなかった。更生を考えると、少年院送致は不当に重すぎると考え、抗告した」と話している。

 ◆専門家の声

 ◇安易な送致避けるべし/自立支援施設の充実を

 重大犯罪の低年齢化に対処するため、少年院送致できる年齢を引き下げた改正少年法の施行から約1年半。家裁と高裁で判断が分かれた新潟のケースについて、専門家の間には「安易な少年院送致は避けるべきだ」との意見が少なくない。一方、少年院での更生が例外的とされる現状の中、これまで通り多くの触法少年を受け入れるとみられる厚生労働省管轄の児童自立支援施設の態勢を強化するよう求める声も聞かれる。

 元家裁調査官の加藤幸雄・日本福祉大学長は「新潟家裁の支部は(強盗という)罪名に引きずられたのではないか。恐喝ととらえれば少年院という選択になったかどうか」と最初の判断を疑問視する。

 07年の少年法改正の際、政府原案は少年院送致の下限年齢を撤廃する内容だったが、衆院での修正で「おおむね12歳」に落ち着いた。ただ、原案でも少年院送致できるのは、家裁が特に必要と認める場合に限るという内容になっていた。加藤学長は「今回の事件は通常なら(保護観察など)自宅処遇のケースだろう」と指摘する。

 西日本の児童相談所長は「13歳という年齢は成長の度合いがさまざま。適切な処遇を見極めるのは難しい」と断った上で、「児童相談所は可能な限り少年院送致を避けたいが、近年、対応が難しい子の受け入れを自立支援施設が避ける傾向にあるのも確か」と明かす。

 改正に反対した日本弁護士連合会の斎藤義房・少年法問題対策チーム座長は、少年院送致決定が3件にとどまっていることについて、「全国の家裁が慎重な運用をしている証しだろう。家裁が少年院送致を選ばなくてもいいよう、自立支援施設の受け入れ態勢など少年福祉の強化をもっと議論すべきだ」と指摘する。【川名壮志、坂本高志】

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 ■ことば

 ◇触法少年

 刑法など刑罰法令に触れる行為をした14歳未満を指し、処罰対象にはならない。通常、警察が補導し、児童相談所(児相)に通告する。重大な事案では児相が家裁に送致し、家裁は児童自立支援施設入所などの「保護処分」や、処分の必要なしとする「不処分」などを決める。

 07年の少年法改正で「おおむね12歳」以上の少年院送致が可能となった。政府は国会審議で11歳の小学生を含むとの見解を示している。

毎日新聞 2009年7月7日 東京夕刊

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