2009.07.05

NEW【駄文・7/5】泉谷しげるに「男」を見た!(大改訂版)

【何故、こんな時代に…】

何故、こんな時代に
頑張れないのか
何故、こんな時代に
頑張らないのか

口煩いぜ
見飽きた励ましの言葉は
今更オマエの口から聞きたくない
歳を取ったかい
いつもの顔付きが優しいぜ
受け売りの言葉など
横に置けよ
何か起こせる口だけのフリは
見抜かれている
気付くのが遅いのか早いのか

何故、こんな時代に
頑張れないのか
何故、こんな時代に
頑張らないのか

口喧しく
いつまで言う事はないだろう
イラつく俺は
オマエの目を見ない
それでも止めずに
素顔に迫ってくる気かよ
俺だけが引いた
ラインを超えてくる
何もかも見棄てたフリしても
見抜かれている
気付くのが遅いのか早いのか

何故、こんな時代に
頑張れないのか
何故、こんな時代に
頑張らないのか

命を賭けて答えを出すのは
戦う相手が強いから
目覚めるのが遅いのか早いのか

何故、こんな時代に
頑張れないのか
何故、こんな時代に
頑張らないのか

(作詞・作曲/泉谷しげる)



【行きずりのブルース】

なんでアイツを悪いと決めた
誰があの娘を哀れと決めた
どうしてアイツが選ばれた
後先も考えずに

知らない仲でもあるまいし
時折のぞく欲望が
誰かに釣られて暴れ出し
時代錯誤に罵り合い

それほど憎い相手なら
ひと思いに殺ればいい
残るものが何であれ
それが今だと思うなら

何も見ていない
何も見ていない
怒る前は…

出過ぎたマネはしませんが
とても独りじゃ生きられねえ
どっち付かずの卑怯者でも
愛する事は忘れないはず

何を見ていない
誰が見ていない
何が見たいのさ
誰を見たいのか
怒る前に…

(作詞・作曲/泉谷しげる)





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泉谷しげる…。
1970年代、吉田拓郎や井上陽水と並び「フォーク御三家」などと呼ばれたソングライターである。

だが1979年、TVドラマ「戦後最大の誘拐事件 吉展ちゃん事件」でいきなり犯人役を演じ、役者として大絶賛されたのを期に俳優としても活躍するようになった。
80年代に流行したトレンディドラマでこそ剽軽な亭主役をこなしたが、以後は自ら好んで悪役や穢れ役を演じた。最近ではTVドラマ「電車男」の痴漢役で注目を浴びた。
私はそんな泉谷が嫌いではなかったが、やはり彼は「歌を棄ててしまった」のかと寂しい思いを抱いていた。

70年代の泉谷のソングライターとしての個性は際立っていた。「春夏秋冬」「春のからっ風」「寒い国からきた手紙」「白雪姫の毒リンゴ」などの名曲と共に挑戦的かつ過激な反体制的な楽曲も彼の十八番だった。
荒削りの歌詞、しかし聴けば聴く程、心を激しく揺さぶった。
怒鳴るように、叫ぶように唄い、ギターを打楽器の如く鳴らした。しかし、フッと見せる恥じらいや笑顔は透明感に満ちていた。

高校中退後、職を転々とし、また幼少期に患った小児麻痺の影響で足が不自由ながらも常に前向きに生き続けた結果、自分の心に燻る怒りや悲しみを表現する事が出来る「フォークソング」に辿り着いたと彼は言う。
75年には拓郎、陽水、小室等と共に「フォーライフレコード」設立のメンバーに加わったが、極めて強い個性と組織嫌いから「フォーライフ」を離れ、これを期に彼の楽曲はフォークからロック色を強めていく…。
考えてみれば、最初から泉谷の歌はロックだったのかもしれない。





私は泉谷が「吉展ちゃん事件」に出演した時、泉谷しげるという「男」の強さに感動した記憶がある。「吉展ちゃん事件」の犯人も足が不自由だった。それを泉谷はそのまま演じたのだ。
本来ならば自分のマイナス、コンプレックスは可能なかぎり隠したい、触れられたくないと思うのが自然な人間のサガであり感情だと私は思っていた。しかし彼は足の不自由さを隠す事なく、堂々と演技の中に晒したのだ。

泉谷しげるには多くの伝説が残されている。
ケンカ・暴力沙汰に明け暮れていた吉田拓郎に唯一タメで張り合い殴り合いで勝った(一説では引き分けとも言われるが)のも泉谷だという。なぎら健壱も、当時の荒くれミュージシャンの中で最もケンカが強かったのは泉谷だと言っている。
そんな泉谷の強さはケンカだけではなかった。人間としての本質的な「強さ」を有していたが故に、彼は俳優として悪役・穢れ役を好んだのだ。本当の泉谷は極めて繊細で優しい。それは彼の楽曲のそこかしこから伺う事が出来る。
しかし…。

繰り返すが私は彼が歌を棄てたと思い込んでいた。それが残念でならなかった。
ところがミュージシャン・泉谷は健在だった。40年前と変わらず、現在も強烈なメッセージソングを唄い続けていたのだ。
冒頭で紹介した「何故、こんな時代に…」「行きずりのブルース」はそんな楽曲のひとつである。

本当に優しい男は外見だけでは判断などつきやしない。偽善者…綺麗事だけは得意だが、見てくれだけの優男には戦う度胸でさえあるはずもない。
一見、粗野で暴力的で無頼派を気取る人間…自分の強さも弱さもさらけ出す偽悪者こそが、本当に「強さ」を知り、偽りのない優しさを持っている。
泉谷しげるはそんな「男」である。
芦原英幸や松井章圭のように…。

泉谷しげる…まさに男が聴くべき最高のミュージシャンである。


(了)


samurai_mugen at 08:19 │clip!