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岐路の夏:09都議選 清瀬など小児3病院、統廃合 かすむ、身近な命

 ◇自公賛成今春可決 8年越し、議論再燃

 小児医療に関する東京都議選候補者の主張に、じっと耳を傾ける人たちがいる。来年3月、府中市に新設される「小児総合医療センター」への統合が決まっている清瀬小児病院(清瀬市)など3病院の地元有権者だ。8年前に始まった統廃合論議だが、決着した今も反対論がくすぶる。医師不足、病院の偏在、身近な医療の崩壊……。「衆院選の前哨戦」という位置付けからは見えにくいが、暮らし直結の争点がある。【山本将克】

 清瀬市の主婦(38)は、長男(7)が発作を起こすたび3年前の一夜を思い出す。布団の上に正座し、苦しそうに「ひゅーひゅー」と肩で息をしていた。

 「ただの風邪ではない」と直感し、車で10分の清瀬小児病院に連れていった。診断は小児ぜんそく。「症状によっては命にかかわる」と医師から告げられ、不安になった。それからも長男はたびたび発作を起こし、何度も診察を受けた。

 ヘルニアを患った長女(9)も、心臓病で苦しんだ次女(4)もここで手術を受けた。親子にとって小児病院は「命の砦(とりで)」のはずだった。

 しかし、八王子小児病院(八王子市)、梅ケ丘病院(世田谷区)とともに清瀬小児病院は来年3月までに姿を消す。代わりに新設される府中市の小児総合医療センターは、周産期医療や救命救急で国内トップレベルの処置が可能になるが、車でも1時間近くかかる。「地域の小児医療はどうなるのか」と主婦は思う。

 統廃合の条例案は、今年3月の都議会で自民、公明が賛成し可決された。民主、共産、東京・生活者ネットワークは反対した。可決で議論は収束したかに見えたが、都議選が近づき3病院の存続を巡る議論が再燃した。

 清瀬市がある北多摩第4選挙区(定数2)には3人が出馬した。自民の現職は「高度で専門的な小児救急体制が整う」と統廃合の利点を訴え、民主の現職と共産の新人は「子どもの治療は1分1秒を争う」と地元の病院がなくなることを批判している。

 都内の小児科医は06年現在3805人。10年前に比べ400人強も減った。病院の再配置をはじめ身近な医療のあり方は、一つの選挙区だけにとどまらない問題だ。東京の場合、多摩には専門的な小児病院が23区に比べて大幅に少ないという「地域格差」も指摘されている。しかし、都議選全体の争点にはなっていない。

 この主婦にとって、政治はずっと人ごとだった。「政治が変われば生活も変わる」。12日の投票日は、3児の母親の立場から1票を投じるつもりでいる。

毎日新聞 2009年7月4日 東京夕刊

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