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社説:水俣病特措法 幕引きの立法はやめよ

 水俣病被害者救済の特別措置法を巡る自民・公明両党と民主党の修正協議が、国会対策委員長、政調会長レベルに移り、週内決着に向け動き出した。与党は当初から、今国会中の法案成立を目指しており、民主党も鳩山由紀夫代表が早期決着の期待を表明している。

 熊本水俣病、新潟水俣病とも公式確認から約半世紀、被害者の高齢化が進んでおり、早期に解決が図られるに越したことはない。ただ、それも内容次第である。それどころか、妥協の内容によっては幕引き立法になってしまいかねない。

 与党と民主党がそれぞれ、国会に提出している特措法案の共通点は、被害者に一時金や療養費などを支給するというもので、95年の政治解決の第2弾という色彩が強い。これまでの修正協議では、与党が支給対象を具体的に例示する民主党案に歩み寄っている。与党は、法的な救済の根拠になっている公害健康被害補償法(公健法)に基づく地域指定を救済終了時点で解除する条項を民主党の要求で外すことにも柔軟な姿勢をみせている。

 ただ、民主党が見直しを求めている、チッソを事業継続会社と補償実施・公的債務返済会社に分離する案は堅持の姿勢だ。事業会社の株式売却益をその財源に充当することができなくなるためと説明している。

 特措法と公健法を結びつけることは、公害被害の幅広い救済の観点からみて筋が通らない。日本弁護士連合会が先ごろ提案した「水俣病被害者の補償に関する特別措置法」要綱案でも、公健法上の救済との両立が打ち出されている。地域が解除され、チッソの分社化後、補償会社が清算されてしまえば、日本の公害の原点でもある水俣病問題の幕引きともなりかねない。被害者団体の中に今回の特措法に強い反対論があるのは、これまで司法の場で明確にされてきた企業、行政の責任に終止符が打たれることへの意思表示でもある。

 水俣病被害者の救済が進まない最大の障害は77年に環境庁(現環境省)が設定した認定基準である。二つ以上の症候が認定の条件である。04年の関西訴訟最高裁判決で、有機水銀汚染を受けたことが確認できれば、ひとつの症候でも司法救済することが確定した。それにもかかわらず、行政は基準見直しを拒否している。現行の認定基準で行われている熊本県での認定作業では棄却が多数を占めている。与党、民主党が認定問題に踏み込まないことは合点がいかない。日弁連が基準の見直しを求めているのは当然のことだ。

 水俣病問題は国会対策として扱われるべきではない。早期立法化で妥協しても、水俣病は終わらない。

毎日新聞 2009年6月29日 0時23分

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