2009年6月30日10時56分
26日に東京・後楽園ホールで行われた試合で、リングサイドから選手の健康状態を調べるJBCの職員(左)=林敏行撮影
JBCの検査官が必要と判断すれば「Dカード」を掲げ、ドクターをコーナーに呼ぶ事ができる
今年3月、ボクシングの日本ミニマム級王座決定戦で敗者が死亡し、勝者も引退に追い込まれた異例の事故を受け、日本ボクシングコミッション(JBC)などが、試合中の健康確認や検診体制の強化など、リング禍根絶に向けた対策に動き出した。ただ、今までも様々な対策を作りながら、死亡事故に歯止めはかかっていない。今回の動きが、決定打になるかは未知数だ。
3月の日本ミニマム級王座決定戦、金光佑治(六島)―辻昌建(帝拳)は激闘だった。序盤は辻ペース。中盤から金光がパンチを集める。辻は8、9回に盛り返した。ともに無数のパンチを浴び、採点は辻がリードしていた。
最終10回直前、辻に異変が見えた。フラフラで立ち上がるのもやっと。手を出し続けたが、1分過ぎにKO負け。直後に意識不明になり、同日中に開頭手術を受けたが、急性硬膜下血腫で3日後に死亡した。金光も後日、硬膜下血腫が判明。JBCから勧告を受け、引退した。
関係者の中には「10回開始の前にレフェリーが試合を止めるべきだった」という声もある。一方、辻の減量や調整法に問題はなく、タオルを投げることができる立場のジム側も、10回の異変は疲労と受け止めていたという。JBCは「現場レベルで危険は察知できなかった」と判断した。
◆選手の状態試合中の確認
52年のJBC発足後、リング事故で死亡したのは35人目。昨年5月も22歳の選手が死亡した。JBCは今年4月から各ラウンド後、両コーナー下に職員を送り、選手の健康状態を確認するようにした。レフェリーはジャッジからスコアを回収し、全神経を選手に傾けられない。検査官は必要なら、リングサイドにいるドクターを呼ぶ「Dカード」をかざすことになった。
医学的側面からの防止策も。今まで医事講習会はジム経営者らを対象にしたが、7月の講習会は、選手を直接指導するセコンド陣を初めて対象にし、頭部外傷や減量の知識などを伝える。20戦以上の経験、またはA級(8回戦以上)に昇格する選手には、CTより精密な磁気共鳴断層撮影(MRI)を義務づける。
「ボクシング界の試みが実社会で受け入れられているか、問う機会がなかった」(安河内JBC事務局長)と、諸問題を議論する第三者機関もメディア関係者、医師らをメンバーに設置する。37歳定年制などが議題になる。