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アメリカよ・新ニッポン論:第4部・受容の終わり/6(その2止)

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 <1面からつづく>

 ◇世界中で「囲い込み」

 ◇大リーグ、3割外国人 中国では誤算、五輪後不人気

 大リーグ(MLB)の人材と市場を狙った海外膨張はめざましい。今季、米50州出身以外の選手の割合は28%。マイナー契約の選手に限れば47・8%に達した。

 誤算は中国だった。08年北京五輪開催が01年に決定すると、五輪野球を跳躍台に新たな巨大市場を育て上げようと熱心にテコ入れしてきた。中国ナショナルチームに監督、コーチを派遣。球場を建設し、北京事務所を開いた。ヤンキースは07年、米金融大手ゴールドマン・サックスを通じ、独自に「野球アカデミー」創設を計画。史上初の中国人選手2人と契約も結んだ。

 しかし、12年ロンドン五輪で野球が外れた影響もあり、北京五輪が終わっても中国で野球人気に火はつかなかった。姚明(ヤオミン)の加入で米プロバスケットボール人気が沸騰したのとは好対照だ。ボールとゴールがあればできるバスケットに比べ、野球は設備も用具も経費がかかるのがネックだ。

 昨年11月、広州に現地法人を作ったスポーツ用品メーカー、ゼットの加賀谷直樹渉外販促部課長は「野球人口は都会の豊かな層に限られ、農村では厳しい。五輪後も売り上げは微々増。バットが売れていると思ったら、防犯用だったという笑い話もある」と語る。

 中国政府の国家体育総局も担当者が頻繁に代わり、最近はスカウトの受け入れも断ることがあるという。

 かつてヤンキースで通訳を務め、大リーグの代理人も務めた石島浩太さんは「大リーグは五輪後、中国には見切りをつけた印象だ」と指摘する。

 中国がダメなら、次はインドへ。米野球ビジネスの貪欲(どんよく)さは挫折を知らない。いち早く戦略の重点をシフトしたMLBアジアのジム・スモール副会長は「インドは公用語が英語で、米国への留学生も多い。野球と共通性のあるクリケットも盛んで、広がる素地は十分」と期待する。

 黒人、ユダヤ人、メキシコ人、日本人と「囲い込み」の輪を広げてきた大リーグ。どこでどれだけの利益を出せるか、常に世界を相手に大きな絵を描いている。インド進出は10年先を見据えた投資だ。野球も金融や外交、コカ・コーラやマクドナルドと同じく、世界へ広げていく「普遍的価値」の一つであり、日本野球は、そのひとコマでしかない。

 ◇日本、アジアに活路

 日本も手をこまねいていたわけではない。日本野球機構(NPB)は北京五輪までの3年間、中国チームを日本に招いてファームや社会人野球との交流戦を行った。横浜、巨人などが中国野球リーグの球団と提携し、中国選手を獲得した。

 大リーグ主導で06年、「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」がスタート。それを見越して前年、NPBが旗振り役となり、アジア野球の一体化を目指す試みも始めた。日本、韓国、台湾、中国で毎年頂点を争う「アジアシリーズ」だ。

 しかし、昨年は不況でスポンサーが撤退。約2億円の赤字が出た。頼みの中国も期待ほど盛り上がらず、5年目の今年、開催中止は確実な情勢だ。

 インドまで版図を広げ、いずれ日本ものみ込もうと狙う大リーグ。世界規模の再編戦略に対し、日本野球の将来像をどう描くのか。

 代替案として浮上したのが、日韓プロ野球の優勝チームで争う「日韓チャンピオンシップ(仮称)」構想だ。

 3月の第2回WBC決勝。日本対韓国戦の平均視聴率は、関東地区で36・4%(ビデオリサーチ調べ)に達した。米国抜きでも、ハイレベルの白熱した試合ができればファンは付く手応えがあった。

 今や実力で互角に成長したライバル韓国と「アジアの両雄対決」を定着させ、大リーグに対する発言力を強めようという考えだ。中国抜きでも、結局は「アジアの日本」の存在感を高めるほかに道はない。

 12球団の代表者が集まる実行委員会では、日韓の優勝チーム同士が11月に1試合対戦する案を、近く検討する。シーズン中の公式戦のセ・パ交流戦に「日韓交流戦」を組み込む案も浮上している。

 ◇「米国式」と違う道を--日米の野球事情に詳しい池井優・慶大名誉教授(日本外交史)の話

 政治も外交も米国べったりの時代は過ぎた。世界の中、アジアの中の日米関係を考えるべきだ。米国に文句を言うばかりでなく、日本独自の方向性を示せば米国も見直す。

 米国は野球のグローバル化を考えたが、欧州と途上国で普及していない。五輪競技から外され、サッカーW杯の野球版としてWBCを考えたが、米国以外の国に資金と観客動員力がなければ無理だ。日本は日米関係に基軸を置きつつ、アジア全体の野球をどう盛り上げていくかが大切。スポンサーがつかないからやめるのではなく、米国のマネー至上主義とは異なる方向を模索すべきだ。

毎日新聞 2009年6月29日 東京朝刊

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