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From:イラン バシジも十人十色

 バシジ。「民兵」とも「志願兵」とも訳されるが、今回のイラン大統領選後の混乱で、過激派のような印象が定着してしまったようだ。

 選挙に「不正」があったとして再選挙を求める改革派の抗議行動の現場で、「ネダ」という名の女子学生が銃弾に倒れた。その瞬間の衝撃的な映像が世界に流れ、彼女は抗議運動の象徴として「イランの天使」となった。その天使を撃ったのがバシジだ。

 改革派ムサビ元首相の支持者と治安部隊の衝突の最前線には、大抵、バシジの姿があった。

 今月13日の開票結果発表後、支局近くの広場でも暴動が起きた。一帯を埋め尽くした市民が投石し、銀行や車両を破壊した。路上でタイヤやゴミ箱を燃やした。駆け付けた警官隊はすぐに退却。代わって到着した私服のバシジ集団が、こん棒などを手に「暴徒」に突撃し、追い払った。

 バシジは革命防衛隊の傘下にあるが、民間人だ。当局は警官隊や軍隊ではなく、バシジを矢面に立たせることで「市民同士の抗争」にし、改革派支持者の怒りの矛先が、極力当局に向かわないよう考えたのだろう。

 バシジと言えば、イラン・イラク戦争(80~88年)中の人海戦術を思い出す。天国行きの「殉教」を報酬に、多くの少年たちがイラクへの地雷原を突撃し、後続の本隊進攻の捨て石になった。

 先の暴動の翌々日、バシジの青年(28)と話す機会があった。市内移動で使った乗り合いタクシー運転手で、本業は学生だ。

 「どこかの衝突の現場に駆け付けたの?」

 「いいえ。僕はムサビさんを支持してるから」

 バシジも革命防衛隊も、保守強硬派のアフマディネジャド大統領支持一色ではなく、案外と例外がいるらしい。前々回の01年選挙では、真偽は不明だが、革命防衛隊の4分の3が再選を目指した改革派ハタミ大統領(当時)に投票したとの情報もあり、こうした組織とて、一枚岩ではない。

 「緊急招集令を無視しても、ボランティアだから怒られることはない」。笑顔を絶やさない青年はそうは言いながら、「僕たちが現場にいるだけで暴動の抑止力になるからね」と、いつまでも無視するつもりはないようだった。

 バシジの要員は数百万人とも言われるが、銃器を持つのは、軍事部門に所属し訓練を受けた者だけ。地域でコーラン(イスラム教聖典)や書道などを教える文化活動の従事者も少なくない。青年もその一人だ。

 バシジになると、生活費や学費の支援、就職などで優遇がある。多くは信仰心の厚い、低所得者やその子弟たちだ。

 一方、抗議行動に参加した改革派支持者は、多くが衣食足りて「自由」を求める中間層以上である。衝突の最前線には、社会の格差という亀裂が走っているのだ。【春日孝之】

毎日新聞 2009年6月29日 東京朝刊

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