和歌山

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安心医療を求めて:連携のゆくえ/5止 住民対話 /和歌山

 ◇出前講義で知識広め 「心のへき地」つくらぬ

 午後7時過ぎ、JR周参見駅を出た特急「オーシャンアロー」車内。東大阪市の自宅に帰る女性(57)は窓の外の夕闇に向かいハンカチを振った。水田の真ん中で母(79)が手ぬぐいを振っていた。

 母はすさみ町で27年間一人暮らし。女性は「何かあれば引き取れるように」と同市の4LDKマンションに住むが、母は残ったまま。母は02、03年、太ももの骨折で同町の国保すさみ病院に入院。今は「ぼけんといてね」が口癖になった。実家に帰る度、母と同世代の知り合いが亡くなったと聞き、帰りの電車で不安に駆られる。「何もない小さな町。病院だけはなくならないで」と心の中で祈る。

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 半世紀前の1960年、同町には1万人余りの町民がいた。高度経済成長以降、都市部への流出が続き、09年3月の人口は5079人。65歳以上の高齢化率は約40%で、全39地区中18地区で65歳以上が過半数だ。国が08年末にまとめた人口推計によると、同町は35年に人口2494人、高齢化率は62・9%で全国7位の高さとなる。

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 国保すさみ病院院長の高垣有作さん(50)は超高齢化に「住民との対話」で対峙(たいじ)する。05年に赴任し、08年春に院長になった。医師は4人。「仕事で来れなかった」と軽症患者の休日・時間外受診者が多く、疲れた医師らを見て、診察時間内の受診を呼び掛けた。05年に比べ、08年は約3割減った。

 住民に医学的知識を身に着けてもらおうと08年6月、集会所などで出前講義も始めた。講義は高垣さんが発熱をテーマに内科診断学の内容を解説し体温計の間違った使い方を実演するなど笑いを誘う。26地区で約630人が参加。町内を一巡し次は腹痛がテーマだ。

 医師は4人のままだが08年6月から訪問診療も始めた。高垣さんは言う。「『見捨てられた』と感じる『心のへき地』には医師も住民も集まらない。お年寄りが安心して暮らせるシステムを確立すれば、移住者も増える。すさみモデルを全国発信し日本が将来直面する問題の解決につなげたい」=おわり(この連載は加藤明子が担当しました)

毎日新聞 2009年6月28日 地方版

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