2009.06.26
【駄文･7/26】ﾔｸｻﾞから電話が掛かってきた話(改訂版)
2009年7月26日
つい先日の話である｡
体調を崩してﾍﾞｯﾄﾞに寝ていたら突然携帯電話の呼び出し音がなった｡私は仕事･ﾌﾟﾗｲﾍﾞｰﾄにかかわらず電話帳に登録してある相手からの電話の場合､着信音だけで分かる設定にしている｡ところが､その時の着信音は電話帳登録者以外からのものだった｡
私は慎重に電話に出た｡同時に契約している某探偵社直通の接続ｽｲｯﾁを入れた｡すると明らかに｢まとも｣ではない男性の声が響いてきた｡精一杯威圧するように｢ｵﾀｸ､景気いいようじゃない!?｣と第一声｡
こんな時の危機管理の定石は相手が素人かﾎﾝﾏﾓﾝの｢稼業者｣かを見極める点にある｡私は努めて冷静に､だが決して気圧された気配も見せずに訊いた｡
ｱﾝﾀ誰なん?
誰に電話してるの!? 俺の名前を言ってみい｡
相手は中々正体を表さない｡ただ言葉から甲信越地方の訛りが感じられた｡相手の名前を引き出そうとしても巧く応じない｡誰に電話してるのか? という質問にも答えない｡そんなやり取りが続いた｡
するとただ一言だけ､相手はある人物のﾌｧｰｽﾄﾈｰﾑを溢した｡それだけで私は概ねの背景を理解した｡私には公私共に｢敵｣が多いが､ある程度は分類する事が可能だ｡相手が言った名前から､私は｢敵｣が読めたと言ってもいいだろう｡大した相手ではない｡
そこで私は相手を徐々に追い詰めていく戦法に変えていった｡
｢ｵﾏｴ､堅気の人間かい!? それとも稼業のもんかい!?｣
｢稼業? 何だそりゃあ｡何言ってんだﾎﾞｹｶｽが!｣
｢稼業は稼業やないかい!! ｵﾏｴは稼業もんかと訊いてるんじゃ｣
｢稼業は農業だ｡稼業が農業でも俺はﾔｸｻﾞだ｡電話だけじゃすませねえからな｡若い衆連れて殺しにいくぞ!!｣
とうとう正体を現した｡
だが私は思わず笑ってしまった｡相手はどうやら｢稼業｣を｢家業｣と勘違いしたようだ｡ちなみに｢稼業者｣とはｱﾝﾀﾞｰｸﾞﾗｳﾝﾄﾞの世界では｢組織に所属した本物のﾔｸｻﾞ｣を意味する｡｢稼業者｣と言ってﾋﾟﾝとこなければほぼ100％は素人か､その辺のﾁﾝﾋﾟﾗに過ぎない｡
更に相手は決定的なﾐｽを犯した｡現在の暴対法では自らを｢ﾔｸｻﾞ｣と名乗っただけで十分な脅迫罪に問われる｡ましてや｢殺す｣と口にしたら終わりだ｡それだけで相手は所轄の｢ﾏﾙ暴｣､つまり捜査第4課によって拘束される｡第一､ﾎﾝﾏﾓﾝならば絶対に言わない言葉である｡経験者の私が言うのだからこれは事実である｡
しかし私は敢えてそれを言わず､更に訊いた｡
｢ｱﾝﾀ､ﾔｸｻﾞというんならどこの代紋を背負ってるんよ?｣
またも相手は当惑の色を見せた｡ｺｲﾂ完全に百姓だ! 私はとうとう笑っていた｡
｢何がおかしい､このｷ*ｶﾞｲ野郎が! 代紋? ｵﾀｸさっきから何訳分からねえ事ばかり言ってんだ!? 頭おかしいんじゃねえか｣
｢代紋が分からん!? ﾎｰ､つまりどこの組織の人間なんやって訊いてるんよ､ﾔｸｻﾞ屋さん｣
私はもう笑い声である｡本物のﾔｸｻﾞが｢代紋｣も知らないとは噴飯ものだが､私はもう少し我慢する事にした｡
｢代紋が分からんならええよ｡ｵﾏｴどこの組のもんなんよ!?｣
すると､決定的な言葉を吐いてしまった｡
｢●●組のもんだ!!｣
日本最大の広域暴力団の名前を口にした｡これで｢ﾏﾙ暴｣行きは決定である｡既に契約探偵社はPCにｲﾝｽﾄｩｰﾙさせた逆探知ｿﾌﾄを起動させているだろう｡否､相手の電話が非通知ではなく番号通知設定になっているのでその必要はない｡簡単にNTTから相手の名前も住所も判明するからだ｡自分の電話番号を晒して｢ﾔｸｻﾞだ､殺す｣とはまさに百姓丸出しである｡あまりに愉快なので私は暫く遊ぶ事にした｡
｢ｵﾏｴなあ､素人やろ? ●●組!? ●●の代紋は何か分かるんか? それになあ､●●組の人間は自分から●●組なんて名乗らんよ｡ｵﾏｴみたいな田舎もん､直系の直参やないやろが｡枝の枝の末端がせいぜいなはずじゃけん｡その小枝が●●組を名乗ったなら大変な事になるけんね｡俺は少なくとも●●組と何の関係も遺恨もない正真正銘の堅気じゃけん｡ちゅう事は､ｵﾏｴ●紋背負って俺にｹﾝｶ売っとるんとちゃうやろが｡ﾍﾀ打ったなあ｡ｵﾏｴ警察だけやのうて●紋からもﾀﾏ狙われるけえ｡それにｵﾏｴ､自分からﾔｸｻﾞだ殺すだ言ったけんね｡ちゃんと録音してます｡それだけでｵﾏｴは拘置所行き決定やな｡塀から出たら今度はどうなるか知らんよ｡ｺﾝｸﾘの浮き輪して海水浴か､富士の樹海でｽｺｯﾌﾟ担ぎながらｵﾘｴﾝﾃｰﾘﾝｸﾞでもさせられるかもしれんなあ｡田舎の百姓が､昔ﾔﾝﾁｬやってたかどうか分からんけん｡簡単に稼業者ﾂﾞﾗしよったら警察だけの問題やなくなるけんね｡ﾎﾝﾏﾓﾝから追い込まれるけん､どうしよ?｣
私がこう言い終わる前に電話はｶﾞﾁｬﾝと切れた｡
つい先日の話である｡
体調を崩してﾍﾞｯﾄﾞに寝ていたら突然携帯電話の呼び出し音がなった｡私は仕事･ﾌﾟﾗｲﾍﾞｰﾄにかかわらず電話帳に登録してある相手からの電話の場合､着信音だけで分かる設定にしている｡ところが､その時の着信音は電話帳登録者以外からのものだった｡
私は慎重に電話に出た｡同時に契約している某探偵社直通の接続ｽｲｯﾁを入れた｡すると明らかに｢まとも｣ではない男性の声が響いてきた｡精一杯威圧するように｢ｵﾀｸ､景気いいようじゃない!?｣と第一声｡
こんな時の危機管理の定石は相手が素人かﾎﾝﾏﾓﾝの｢稼業者｣かを見極める点にある｡私は努めて冷静に､だが決して気圧された気配も見せずに訊いた｡
ｱﾝﾀ誰なん?
誰に電話してるの!? 俺の名前を言ってみい｡
相手は中々正体を表さない｡ただ言葉から甲信越地方の訛りが感じられた｡相手の名前を引き出そうとしても巧く応じない｡誰に電話してるのか? という質問にも答えない｡そんなやり取りが続いた｡
するとただ一言だけ､相手はある人物のﾌｧｰｽﾄﾈｰﾑを溢した｡それだけで私は概ねの背景を理解した｡私には公私共に｢敵｣が多いが､ある程度は分類する事が可能だ｡相手が言った名前から､私は｢敵｣が読めたと言ってもいいだろう｡大した相手ではない｡
そこで私は相手を徐々に追い詰めていく戦法に変えていった｡
｢ｵﾏｴ､堅気の人間かい!? それとも稼業のもんかい!?｣
｢稼業? 何だそりゃあ｡何言ってんだﾎﾞｹｶｽが!｣
｢稼業は稼業やないかい!! ｵﾏｴは稼業もんかと訊いてるんじゃ｣
｢稼業は農業だ｡稼業が農業でも俺はﾔｸｻﾞだ｡電話だけじゃすませねえからな｡若い衆連れて殺しにいくぞ!!｣
とうとう正体を現した｡
だが私は思わず笑ってしまった｡相手はどうやら｢稼業｣を｢家業｣と勘違いしたようだ｡ちなみに｢稼業者｣とはｱﾝﾀﾞｰｸﾞﾗｳﾝﾄﾞの世界では｢組織に所属した本物のﾔｸｻﾞ｣を意味する｡｢稼業者｣と言ってﾋﾟﾝとこなければほぼ100％は素人か､その辺のﾁﾝﾋﾟﾗに過ぎない｡
更に相手は決定的なﾐｽを犯した｡現在の暴対法では自らを｢ﾔｸｻﾞ｣と名乗っただけで十分な脅迫罪に問われる｡ましてや｢殺す｣と口にしたら終わりだ｡それだけで相手は所轄の｢ﾏﾙ暴｣､つまり捜査第4課によって拘束される｡第一､ﾎﾝﾏﾓﾝならば絶対に言わない言葉である｡経験者の私が言うのだからこれは事実である｡
しかし私は敢えてそれを言わず､更に訊いた｡
｢ｱﾝﾀ､ﾔｸｻﾞというんならどこの代紋を背負ってるんよ?｣
またも相手は当惑の色を見せた｡ｺｲﾂ完全に百姓だ! 私はとうとう笑っていた｡
｢何がおかしい､このｷ*ｶﾞｲ野郎が! 代紋? ｵﾀｸさっきから何訳分からねえ事ばかり言ってんだ!? 頭おかしいんじゃねえか｣
｢代紋が分からん!? ﾎｰ､つまりどこの組織の人間なんやって訊いてるんよ､ﾔｸｻﾞ屋さん｣
私はもう笑い声である｡本物のﾔｸｻﾞが｢代紋｣も知らないとは噴飯ものだが､私はもう少し我慢する事にした｡
｢代紋が分からんならええよ｡ｵﾏｴどこの組のもんなんよ!?｣
すると､決定的な言葉を吐いてしまった｡
｢●●組のもんだ!!｣
日本最大の広域暴力団の名前を口にした｡これで｢ﾏﾙ暴｣行きは決定である｡既に契約探偵社はPCにｲﾝｽﾄｩｰﾙさせた逆探知ｿﾌﾄを起動させているだろう｡否､相手の電話が非通知ではなく番号通知設定になっているのでその必要はない｡簡単にNTTから相手の名前も住所も判明するからだ｡自分の電話番号を晒して｢ﾔｸｻﾞだ､殺す｣とはまさに百姓丸出しである｡あまりに愉快なので私は暫く遊ぶ事にした｡
｢ｵﾏｴなあ､素人やろ? ●●組!? ●●の代紋は何か分かるんか? それになあ､●●組の人間は自分から●●組なんて名乗らんよ｡ｵﾏｴみたいな田舎もん､直系の直参やないやろが｡枝の枝の末端がせいぜいなはずじゃけん｡その小枝が●●組を名乗ったなら大変な事になるけんね｡俺は少なくとも●●組と何の関係も遺恨もない正真正銘の堅気じゃけん｡ちゅう事は､ｵﾏｴ●紋背負って俺にｹﾝｶ売っとるんとちゃうやろが｡ﾍﾀ打ったなあ｡ｵﾏｴ警察だけやのうて●紋からもﾀﾏ狙われるけえ｡それにｵﾏｴ､自分からﾔｸｻﾞだ殺すだ言ったけんね｡ちゃんと録音してます｡それだけでｵﾏｴは拘置所行き決定やな｡塀から出たら今度はどうなるか知らんよ｡ｺﾝｸﾘの浮き輪して海水浴か､富士の樹海でｽｺｯﾌﾟ担ぎながらｵﾘｴﾝﾃｰﾘﾝｸﾞでもさせられるかもしれんなあ｡田舎の百姓が､昔ﾔﾝﾁｬやってたかどうか分からんけん｡簡単に稼業者ﾂﾞﾗしよったら警察だけの問題やなくなるけんね｡ﾎﾝﾏﾓﾝから追い込まれるけん､どうしよ?｣
私がこう言い終わる前に電話はｶﾞﾁｬﾝと切れた｡
このような経験は決して多くはない｡
1989年､石井和義が｢若い衆連れて東京湾に沈めたる!｣と電話してきたが､私が素性を明かすと慌てて前言を撤回し何度も言い訳しながら謝った｡せいぜいそれくらいである｡
私が物書きとして何を書こうが､私という人間を良く知っているならば絶対に取らない間抜けな脅し方である｡
ただ数年前､似たようなtroubleがあった｡倅の携帯に突然､電話が掛かった｡
｢○○に入会していますので50000円を振り込んで下さい｡入金がない場合は､取り立て業者に委託しますので身の安全は保証出来ません｣
ﾄﾞｽを利かせた声で言ったという｡所謂架空請求である｡この時も私は倅に替わり今回と同じ戦法に出た｡一転して脅す側が｢勘弁して下さい｣と繰り返した｡そして結果もまた笑ってしまう程､今回とそっくりだった…｡
相手の特定や対応は探偵社と私の後見人に任せる事になっている｡しかし私の遊び心が収まらなかった｡
私は相手に何度も電話をした｡もう電話には出ない｡伝言設定になる｡そこに一言入れる｡勿論合法的な言葉である｡そのうち留守番設定に変わる｡何度も繰り返して言葉を残す｡最後には､｢ﾒｯｾｰｼﾞが限度になりました｡暫くしてからお掛け直し下さい｣とAUお留守番ｻｰﾋﾞｽの声が聞こえてきた｡
その後､私はｼｬﾜｰを浴び､ﾍﾞｯﾄﾞﾙｰﾑのｴｱｺﾝのｽｲｯﾁを入れてから再び電話をした｡すると…､
｢この電話番号は現在使われていません｣
私は早急に探偵社に電話をし､相手が電話番号を変えたのか､それとも解約したのか調べてくれるよう依頼した｡勿論NTTには秘守義務がある｡だが｢ｼﾞｬの道は蛇｣という諺がある｡暫くして探偵社から連絡があった｡
解約だという｡
それで私｢個人｣の気持ちは収まった｡
彼のその後は知らない｡
改めて格言をひとつ
｢ｱﾙｷﾒﾃﾞｽは手を汚さない｣
(了)
1989年､石井和義が｢若い衆連れて東京湾に沈めたる!｣と電話してきたが､私が素性を明かすと慌てて前言を撤回し何度も言い訳しながら謝った｡せいぜいそれくらいである｡
私が物書きとして何を書こうが､私という人間を良く知っているならば絶対に取らない間抜けな脅し方である｡
ただ数年前､似たようなtroubleがあった｡倅の携帯に突然､電話が掛かった｡
｢○○に入会していますので50000円を振り込んで下さい｡入金がない場合は､取り立て業者に委託しますので身の安全は保証出来ません｣
ﾄﾞｽを利かせた声で言ったという｡所謂架空請求である｡この時も私は倅に替わり今回と同じ戦法に出た｡一転して脅す側が｢勘弁して下さい｣と繰り返した｡そして結果もまた笑ってしまう程､今回とそっくりだった…｡
相手の特定や対応は探偵社と私の後見人に任せる事になっている｡しかし私の遊び心が収まらなかった｡
私は相手に何度も電話をした｡もう電話には出ない｡伝言設定になる｡そこに一言入れる｡勿論合法的な言葉である｡そのうち留守番設定に変わる｡何度も繰り返して言葉を残す｡最後には､｢ﾒｯｾｰｼﾞが限度になりました｡暫くしてからお掛け直し下さい｣とAUお留守番ｻｰﾋﾞｽの声が聞こえてきた｡
その後､私はｼｬﾜｰを浴び､ﾍﾞｯﾄﾞﾙｰﾑのｴｱｺﾝのｽｲｯﾁを入れてから再び電話をした｡すると…､
｢この電話番号は現在使われていません｣
私は早急に探偵社に電話をし､相手が電話番号を変えたのか､それとも解約したのか調べてくれるよう依頼した｡勿論NTTには秘守義務がある｡だが｢ｼﾞｬの道は蛇｣という諺がある｡暫くして探偵社から連絡があった｡
解約だという｡
それで私｢個人｣の気持ちは収まった｡
彼のその後は知らない｡
改めて格言をひとつ
｢ｱﾙｷﾒﾃﾞｽは手を汚さない｣
(了)
samurai_mugen at 18:45
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