「50歳を過ぎて体がもたなくなった。疲れ切った」と、有田市立病院を05年度末に退職し、市内で開業した医師は振り返った。「患者の容体が気になり、病院に1週間連泊したこともある」という。救急や入院患者への対応で公立病院の勤務は厳しいが、給与は比較的恵まれない。別の医師2人も含め、同市立病院では計3人がこの時期に退職・転勤。その影響もあり、06年度の患者は前年度比で4万人近く減り、経営は厳しさを増す。負のスパイラルだ。
市立病院を済生会有田病院(湯浅町)と統合させる可能性について、21日の同市議会一般質問で議員がただした。吉田公則病院事務長(55)は統合を否定する一方、両病院の存続を前提とする連携強化についても、「具体的な話し合いはまだできていない」と述べるにとどまった。
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総務省が07年12月に市町村に示したガイドラインによると、08年度内に数値目標を盛り込んだ公立病院改革プランを策定、3年後をめどに経営効率化、5年後程度で再編・ネットワーク化や経営形態の見直しが必要だ。県と同市などは、有田地方では「機能分担(再編)・ネットワーク強化」を目指すことを決めた。市立病院と済生会病院は医師の相互派遣や機器共有などを目指す。
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5月、市立病院の尾野光市院長(56)と済生会病院の伊藤秀一院長(60)が会談。しかし関係者は「公立と民間。経営形態が違う。連携の先の姿が見えない」と口をそろえた。
過去の増改築費などが重い市立病院は01~05年、不良債務解消のため県から計約7億2000万円を借り入れた。08年度3月補正予算では、市の一般会計から1億2600万円繰り入れてしのいだ。常勤医は18人だけで、非常勤医14人も交えて診療をこなす。
市立病院の尾野院長は4月以降、自ら市内の10民間病院・診療所を回って協力を探る。職員も「連携しか生き残る道はない」と話す。ただ1市3町で人口10万人足らず、和歌山市までは車で数十分。「手術となれば『(和歌山市の)日赤か医大に紹介状を書いて』と言われる。選ぶのは患者。政策では誘導できない」。ある開業医の言葉だ。=つづく
毎日新聞 2009年6月26日 地方版