山あいに点在する集落。内陸に延びる県道は険しい。高齢者ら9人が暮らす古座川町西赤木地区。町の病院まで車で1時間かかる。
昨年、大倉和視(かずみ)さん(78)は自宅で気分が悪くなった。妻往子(ひさこ)さん(75)の声掛けに返事はない。和視さんは、串本町の国保古座川病院へ救急搬送され、心臓マッサージを受ける。さらに高度な救命治療が必要だったが、和歌山市や田辺市に転送するには救急車で数時間……。
和視さんを和歌山市の県立医大救命救急センターに運んだのは同大のドクターヘリだ。9日間意識不明が続いたが、今は回復した。「ヘリのおかげで助かりました」と和視さん。高齢化と過疎化が進む古座川町の老夫婦の暮らしを、03年に導入されたドクターヘリが救った。
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一方、一部の救急医療機関に搬送が集中する傾向も強まっている。
8日午後9時20分、救急車の赤色灯に照らされ、県立医大の救急搬入口のドアが開いた。前立腺がんの女性。その後も次々と患者は到着する。翌9日午前2時過ぎ。集中治療室(ICU)など重症患者に対応する26床がついに埋まった。「満床」を知らせるファクスを和歌山市などの消防本部に流し、救急受け入れが停止した。
和歌山市にある県立医大、日赤和歌山医療センター、和歌山労災病院の3病院への救急患者は08年度、5万3000人余り。県内の約2割を占める。
県立医大はICUなどの他、救急集中治療部の一般病床20床、他科の一般病床10~20床を救急用に借りる「連携」を、10年前から徐々に強化。それでも08年は、月のうち20~30日間、1日1回以上救急受け入れが止まった。
救急患者を受け入れる県内の病院は65カ所で、99年より12カ所減り、総合病院への集中化は進むとみられる。県立医大救急集中治療部の篠崎正博教授(64)はさらに、「設備や制度も必要だが、何より大切なのは人と人との連携。リーダーとなる救急医の育成を急ぐ必要がある」と、人材面での課題も訴える。=つづく
毎日新聞 2009年6月25日 地方版