韓国初の「尊厳死」のはずが、意外な展開に(下)
パク教授は「脳幹の呼吸中枢機能(呼吸を自動的に調整する機能)が部分的に残っていたためではないかと考えられる。1年以上にわたって人工呼吸器による延命治療を受けていたため、この機能が維持され、体が浅い呼吸に適応し、生体反応を維持できたようだ」と話した。
健康な人が1回呼吸する際、肺には約500㏄の空気が供給される。だが、キムさんは呼吸力が弱いため、1回の呼吸で肺に供給される空気の量は200-300㏄程度となっている。これは1年4カ月も植物状態にあったため、呼吸に欠かせない肋骨の周りの筋肉や横隔膜が弱くなったことに起因する。
キムさんの今の状態が果たしていつまで続くかは、医師団も予測が不可能だという。だがキムさんには、長期間寝たきりの状態にある患者が発症しやすい肺炎や褥創(じょくそう=床ずれ)などの症状はみられない。現在のところ、胃に取り付けられたホースを通じてお粥が供給されており、また点滴による輸液治療も続けられている。
問題は、この程度の呼吸で、胸の筋肉や横隔膜を動かすのに必要な酸素を十分に供給できるか否かだ。植物状態に陥った人は通常、呼吸量が減少の一途をたどり、筋力も低下するため、結局呼吸が止まることになる。
だが例外もある。1976年、米国で初めて尊厳死を認める判決が下された女性患者(当時21歳)の場合、植物状態で人工呼吸器によって生命を維持した後、両親の要請を受けた裁判所の判決を受け、人工呼吸器を取り外した。女性患者はその後10年間生存したが、肺炎のため死亡した。
医学界では現在、キムさんが米国の女性患者のように、長期間生存する可能性があるとの見方も出ている。人工呼吸器に頼らず、数年とは言わないまでも、数カ月間生命が維持される可能性もあるというわけだ。延世大医療院の朴昌一院長は「今後どうなるかは誰も予測できないが、少なくとも現在、死が迫っている段階ではない。医師としての経験から言えば、人間は極限の状態でも生命の火を燃やし続けようとする本能的な要素を持っている」と話す。
医師団はキムさんの容体が悪化しても、強心剤の投与、心肺蘇生術といった延命治療は行わず、自然な死を迎えるようにする方針だ。
- 23日午後、キムさんの人工呼吸器を取り外した延世大医療院の朴昌一(パク・チャンイル)院長(左端)をはじめとする医師団が記者会見に臨み、「キムさんは人工呼吸器を取り外した後も、血圧や脈拍が正常値を保っている」と発表した。/写真=チョン・ギビョン記者
金哲中(キム・チョルジュン)記者(医学専門)
チョ・ベッコン記者
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