ひとこと
平成15年9月10日 「第156回通常国会を終えて」(その2)
 先の国会で私が成立に向けて全力を尽くしていた法案の一つに、『児童買春・児童ポルノ禁止法』改正案があります。衆議院に法案を提出させていただき、青少年特別委員会に付託されたものの、民主党等から趣旨説明要求が出されるなか時間切れとなり、直ちに委員会審議に入ることができませんでした。現行法が成立した時と同じように、与野党が垣根を越えて全会一致で改正案を通すことができれば、と考え行動してまいりました。しかし、最終的には民主党から改正案に対する前向きな回答が得られず、継続処理がなされたとはいえ、前国会会期中での改正を実現できなかったことを大変無念に思っています。

 民主党ほか野党にしても、改正案の全体的な考え方については理解していただいていると了解していますし、100%賛同を表明してくださった野党議員も少なくありません。民主党等の中心的な反対意見は、児童ポルノを「特定・少数の者への提供目的の所持等」をもって処罰すると規定した新たな条項に対するものです。‘単純所持’と区別しにくい部分を処罰することによって、結果的に、単純所持が恣意的に処罰されることになり、プライバシーの侵害につながる怖れがないか、という懸念があるようです。しかし、懸念が示された部分については、すでにわが国が署名を済ませた「児童の権利条約選択議定書」に則った措置であり、また、法案の中でも捜査機関等による恣意的逮捕等が行われないよう、二重、三重のハードルを課す工夫をいたしました。  

加えて、これまでの議論のなかでしばしば持ち出されたのが、この法律改正により、憲法で保障された表現の自由や通信の秘密が侵害されるおそれがあるのではないか、という問題です。このような指摘は、一般の方々からも毎日のように、メールやファックスの形で私の元に届きます。そうした意見を幅広く見聞きし、私はくり返しその内容について考えてみたうえで、やはり法律の改正は必要であり、その方向に間違いはないと思っています。(以上の議論につきましては、法案の提案理由、要旨、新旧対照条文等に関するファイルを添付いたしましたので、改正案の詳細を理解するうえで参考にしていただければありがたいです。)

 もとより、私も、憲法第21条が規定する表現の自由、通信の秘密等は不可侵のものであると考えます。さらに、憲法第12条「この憲法が国民に保障する自由および権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」との規定の重要性も十分に認識しています。

 そのうえで、私が常々考えていることは、日本国憲法が‘国民一般の自由および権利’と規定する場合でも、子どもの権利や自由については大人とは異なる視点で言及する必要があるのではないか、ということです。その意味で、『児童買春・児童ポルノ禁止法』はまさしく、日本で初めて、守られるべき子どもの権利について明記することを目的とした法律でした。「私たちの国、日本は、大人たちが子どもの権利を守る義務と責任を負う国である」という強い意思表示をしたい、すべきである、という思いを込めて立法した法律です。

 この禁止法は、大人による子どもに対する性的、商業的搾取を犯罪とみなして禁じ、処罰することを目的としています。制定に関わった私たち議員は、子どもに対する性的、商業的搾取をする自由や権利を一切の大人に認めません。子どもが自発的に体を売ったり、ポルノの対象になるのだから、被害者は大人のほうだという人もいます。しかし、子どもは心身ともに成長途上にあり、その思考は成熟したものではないのです。そういう子どもの特質を考えるとき、子どもと大人の間には明確な一線を引き、大人は子どもを導く立場にあることをはっきりと認めなくてはならないと思います。その責任を果たすことが何よりも、日本の大人にはいま強く求められているのではないでしょうか。

 昨今、子どもを巻き込んだ事件、犯罪が多発しています。その内容も悪質化しています。私はその大きな原因の一つが、大人が子どもを導くという責任を放棄してきたことにあると考えます。自分の権利や自由の実現だけに執着して、子どもと大人を分かつ一線を見失い、大人としての義務と責任、子どもでない者の子どもに対する義務と責任に思いの至らない日本人が余りに多くなってしまった結果だと思います。私は、日本が今後、大人が子どもを守り、導く社会としてたて直しを図る必要を強く感じています。この法律の改正もそのためのものであることを国会議員だけでなく、多くの皆さまに理解し共感していただければ幸甚です。

 連日、私のところに、「子どもの権利擁護は認めるが、法改正によりマンガやアニメーション、ゲームを規制対象にすることは表現の自由の侵害であり、反対する」という意見が届きます。しかし、私は法改正に携わる議員として、児童ポルノの対象にマンガやアニメ、ゲームをいれると申し上げたことはこれまで一度もありません。とりわけ、インターネットを通じて意見交換をされている皆さんのあいだで、そのような基本的な誤解が広まっていることを残念に思っています。なかには、意図的に、改正案がマンガやアニメ、ゲームを処罰対象にしようとしていると喧伝しているグループもあると思われますが、事情をよく知らない方々がそうした誤った知識に基づき、全く見当違いな改正反対論を主張されることには終止符を打っていただきたいと思います。間違った情報が子ども達にも伝わり、「大好きなマンガやアニメーションを私たちから取り上げないで下さい」というメールが送られてきます。誰もそんなことは一言もいっていないのに、です。

 今回の「ひとこと」では、そうした誤解を解くために、改正法案に関する代表的な質問についての回答を添付ファイルで残しておきました。皆さまにはぜひともこの内容を熟読していただき、正しい理解に基づいて、子どもの権利を守る社会作りに向けてのご意見を賜りたいと願っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
改正の概要
要綱
法案
新旧対照条文
参照条文
皆さまからのご質問に対して

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平成15年9月10日(水)